東日本大震災と破損状況
■第3章 第3章 東日本大震災と破損状況
▶第1節 東日本大震災と破損状況
▶第1項 東日本大震災
東日本大震災は、東北地方太平洋沖地震とそれに伴って発生した津波により引き起こされた大規模地震災害である(上図左)。
東北地方太平洋沖地震は、太平洋プレートと北アメリカプレートの境界域(日本海溝付近)における海溝型地震で、震源域は東北地方から関東地方にかけての太平洋沖の幅約200km、長さ約500kmの広範囲にわたっている(上図右)。数十年から百数十年間隔で発生する海溝型のマグニチュード8.0前後の大地震ではなく、それらが複数同時に発生する連動型地震で、マグニチュードは9.0、日本観測史上最大の巨大地震であった。
規模が大きく震源域が南北に長かったため、平行する本州・東日本の広範囲で強く揺れた。本震の地震動は東日本全域で6分間以上継続し、長い揺れとして体感された。また、減衰しにくい長周期地震動によって名古屋、大阪など遠方でも揺れを観測した。最大震度は宮城県栗原市築館町の震度7、本敷地のある牛久市の震度は震度5強であった。
東北・関東・北海道などの太平洋岸に数m以上の津波が到達、内陸の浸水が広範囲に及んだ。また、各地の埋立地を筆頭に液状化が顕著に表れた。
本敷地のある茨城県牛久市では、液状化現象は確認されていない。大津波により甚大な被害が生じており明確な判断はできないが、地震の規模や震度の割には「地震動による」構造物の倒壊などの被害は少なかった。約90%が倒壊した家屋や家具の下敷きによる圧死であった阪神・淡路大震災と大きく異なり、最大震度7を記録した宮城県栗原市では一人も死者は出なかった。短周期地震動にあたる周期1秒以下の範囲で最も大きな揺れがみられ、木造家屋・非木造の中低層建築物の大きな被害に結びつく周期2秒の応答がさほどでもなかったため、家屋被害は起きにくい揺れだったと考えられる。
<上図左図>に加速度応答スペクトルを過去の地震と比較した表を示す。加速度応答スペクトルについて周期1-2秒の応答をみると、応答が大きかった宮城県石巻でも兵庫県南部地震のJR鷹取の半分程度で、震度7の宮城県築館、震度6強の仙台、茨城県日立ははるかに小さい。
波形が公開された防災科学技術研究所K−NET及びKiK−netによる加速度波形(水平2方向ベクトル和最大方向)と地動最大加速度、地動最大速度及び計測震度を<上図右図>に示す。観測点は最大震度であった宮城県築館、本敷地近くの茨城県つくば及び茨城県土浦である。
■第2項 東日本大震災による破損
▶概 要
震災によって生じた破損の主なものは、躯体に生じたクラックである。シャトーカミヤの各建造物で生じたクラックは、一般的な煉瓦造建造物とはその生じ方を異にする。通常であれば、クラックは目地を伝って入ることがほとんどである。これは目地の強度が煉瓦に対して著しく低いことに起因する。特に明治期の煉瓦造建造物では目地材に石灰を入れることが多かったため、その傾向が顕著である。シャトーカミヤの各建造物に使用されている目地にも同様に石灰が混入されていると考えられるが、煉瓦自体の強度が著しく弱いため、目地とは無関係に、煉瓦を割りな がらクラックが入ることになった。クラックは煉瓦壁の片面に入るだけではなく、壁の内外を貫く貫通クラックとなるものも多数見受けられた。以下、各建造物の煉瓦 壁の破損状況を記す。
▶事務室
事務室は開口部が多く、時計塔も存在してい るため、他の建造物に比べると破損の状況が甚だしかっ た。開口部はアーチで造られていて、アーチの両端部か ら放射状にクラックが生じていた。また、 壁が直交する入隅部にはことごとくクラックが生じていて、萌壊している箇所もみられた。時計塔は捻れるように揺らされたのか、東、北、西の三面に水平に繋がったクラックが生じていた。時計塔の南東面に地表から壁頂まで糸を張ると、地表面から2階まではある程度垂直に建っていたが、ちょうど2階の箇所で折れ曲がり、くの字に曲がった状態になっていることが確認された。また、5基設置されている煙突は東面の1基以外はことごとく傾斜していて、そのうちの北面東側の1基と西面の1基は壁頂から部屋内側に迫り出した根元部分が崩壊していた。
▶醗酵室
醗酵室は2階を中心として開口部上部や隅部にクラックが生じていた。全体的にみると、北面では西側が、南面では東側の被害が大きかった。特に東面は2階開口部の周りにクラックが集中し、開口部上部からペディメントの先端まで入ったクラックと開口部下端から南に向かって水平に入ったクラックが顕著である。北面東側の妻面も2階開口部の周りのクラックが著しく、開口部上端からペディメント先端に入ったクラック、開口部下端から階段踊り場の開口部端部に向かったクラックが顕著である。
▶地下室苗木場
西面に不同沈下が生じており、南北面の西側開口部の周りに大きなクラックが生じていた。特に北面西側の陸迫アーチは落下する寸前の状態であった。
▶洗滌場
壁厚が煉瓦2枚分の厚さしかない上に、開口が多く、ペディメントまで取り付いているため、破損は大きかった。特に東面のペディメントは上部の丸窓の左右に水平にクラックが入り、その上部が面外に傾き、煉瓦表面が弾けるように破損していた。他の棟と同様に開口部周りに多くクラックが生じていた。
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