災害大国(公費遠い住宅再建)

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 災害で住宅が被災した後、元の生活を取り戻すにはお金がかかる。被災後の生活再建にどのくらいのお金が必要なのか。保険や国や自治体からの支給金で、どこまでまかなえるのか。地震保険の保険料が7月に値上がりするのを前に、必要な費用と受けられる資金を想定した。

■建て替え2563万円、支給最大300万円

 住宅再建に必要な費用と得られるお金を、保険会社「SBI少額短期保険」の協力を得て試算した。

 全壊した戸建ての建て替えの場合、壊れた家の解体・撤去、家電や衣類などの家財、仮住まいの家賃もかかる。内閣府の被災者アンケートをもとに計算すると、住宅再建に必要な費用は2563万円保険や支給金など被災後に得られる資金では足りず、新たな借金を抱えることもある。

■宅地の復旧も必要だと、さらに費用がかさむ。

 東日本大震災では、千葉県浦安市などで宅地が液状化した。「NPO浦安液状化復旧相談室」の高階実雄代表によると、傾いた家を元に戻すのに数百万円が必要で、再発防止策には追加資金が必要だ。

 造成地の地すべり被害が起きた仙台市では、国の公共事業などで復旧が進められた。復建技術コンサルタントの佐藤真吾さんによると、1宅地あたり約1100万円の費用がかかった。

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 <共用部は合意で> マンションの被害は、東日本大震災時の仙台市内の例では外壁や受水槽の損壊が多かった。こうした補修は共用部分は1世帯あたり65万円ほど、水回りや内装は220万円ほどかかる。共用部分の大規模修繕には所有者の合意が必要だ。

 管理組合で入った地震保険では、柱や梁(はり)などの構造部分は対象となるが、エントランスなど生活に関係する部分だけでは支払われないことがある。

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 <義援金まちまち> 被災後、国や都道府県から被害を受けた世帯への被災者生活再建支援法による支給金は「全壊」の場合で最大300万円。募金から自治体を通じて給付される義援金もあるが、寄付総額と支給世帯数で配分額はまちまちだ。2003年の宮城県北部地震では全壊で20万円、東日本大震災では百数十万円程度だった。

 半壊以上の住宅の修理は、災害救助法により、最大54万7千円を負担する国の制度もある。

 ただ、これらだけでは必要額には遠く及ばない。地震保険に加入していれば、契約に応じて火災保険の保険金額の半額まで保険金が支払われ、建物だけでなく家財も対象になる。地震保険に加えて、共済や生活再建費を補償する保険に加入する人も増えている。

 被害の程度や場所に応じて再建方法を考えれば、費用も抑えられる。被災地調査の経験が豊富な匠(なる)建築(東京都世田谷区)の保坂貴司さんは「半壊でも建て直す例をよく目にするが、基礎がしっかりしていれば補修で対応できることが多い。見た目であきらめずに相談してほしい」と話す。(北林晃治)

■地震保険、震災のたびに値上げ 巨大被害では受け取り減額も

 地震保険ができたきっかけは50年前の1964年6月16日に起きた新潟地震。当時の田中角栄蔵相が被災地を視察し、創設を表明して、66年に発足した。

 加入率は阪神大震災直前の20年前には7%だったが、大地震が起きるたびに伸び、12年度は27%となった。

 国と保険会社が共同運営し、保険料を準備金として積み立てる。大地震で支払総額が一定額を超えると、国費が投入される。東日本大震災では、阪神大震災の15倍以上の約1兆2千億円が契約者に支払われ、準備金は2・3兆円から1・3兆円に半減。7月から保険料が値上げされることになった。保険料は阪神大震災後にも値上げされている。

 政府が想定する南海トラフ巨大地震で、建物倒壊などによる直接被害は約169兆円、首都直下地震は約67兆円に上る。

 1回の地震での支払総額は7兆円が上限で、それを超えると加入者の受取額が減らされる。財務省によると、この額は最大となりそうな関東大震災クラスの地震が発生した場合の支払総額として見込む7兆円から算出している。

 今回の地震保険料の改定は、全国平均15・5%、最大で30%の大幅値上げとなる。地震によるリスクを反映して地域によって保険料は異なる。南海トラフ巨大地震の津波被害が想定される太平洋沿いの値上げ幅が大きいのが特徴だが、免震や耐震性の高い住宅やマンションは割引される。受け取った保険金はローンを返済したり、車を買って仕事を再開したりと被災者の生活の安定や再建に役立てることも可能だ。

 一方、自然災害で家を失った人を支援する国の被災者生活再建支援制度は、95年の阪神大震災をきっかけに、必要性が叫ばれ、98年に支援法が成立した。都道府県が基金を積み立て国が半額を補助する。04年には、それまで最大100万円だった支給額が、300万円に引き上げられた。

 内閣府のまとめでは13年度末までに、56件の災害に適用され、約21万世帯に約3186億円が支給された。このうち9割の2900億円が東日本大震災で支給されている。(高橋淳)

■公助の限界、多重防御で備えて

京都大防災研究所教授・林春男hayashi

 東日本大震災は、公助の限界が示された災害だった。被災者生活再建支援法による支給金の負担に自治体が耐えられず、特例を設けて国が肩代わりした。大規模災害に備えた制度づくりをする必要がある。一方で、しばしば起きる小さな災害まですべて「公助」でまかなうのにも限界がある。自分にどのようなリスクがあるかを知り、自己責任で備えるべきだ。

 健康の問題だったら、生活習慣病のリスクが高まれば、多くの人は食生活を気にしたり、運動をしたりする。健康や老後の生活資金づくりは考えても、災害はめったにおきず、自分にはふりかからないと特別視しがちだ。

 災害も私たちを取り巻くリスクの一つだ。起きてしまったときに大きなダメージを受ける。自分に原因や過失がないと思うかもしれないが、例えば市町村が配布するハザードマップを見れば必要な備えを考える助けになる。

 支援法、保険、堤防、避難計画、どれも完璧ではない。多重防御という言葉があるように、自分にとって必要な対策を組み合わせて備えることが被害を減らし、被災後の生活再建につながる。

 それでも、被災すればすべてを取り戻すことはできない。家を再建することは、復興に至る手段にすぎない。新しい生活の中で人と人のつながりを通して、喜びや生きがいを見つけることこそが復興につながる。