核燃料サイクル
国のエネルギー政策の根幹とされる核燃料サイクル。その中核を担うと期待されてきた高速増殖原型炉「もんじゅ」(福井県)が、廃炉の瀬戸際に追い込まれています。もんじゅの何が問題だったのか。もんじゅなき後の核燃サイクルは、どうなっていくのでしょうか。
運営主体の日本原子力研究開発機構を「もんじゅを運転する能力がない」と断じ、文部科学相に新たな運営主体を示すように勧告。別の組織が見つからなければ、もんじゅの原子炉から核燃料やナトリウムを抜くといった抜本的なリスク低減策を求めた。
文科省は、原子力機構の職員を残しつつ運営に外部から人を招いた新組織を編成し直し再運転を目指す案をまとめ、経済産業省や首相官邸と調整を進めた。しかし、首相官邸は10年間で5千億円以上の追加投資が必要になる案を受け入れることに難色を示し、9月に経産相を中心に今後の高速炉開発を検討する「高速炉開発会議」を設けることを決めた。もんじゅは「廃炉を含めて見直す」ことになった。
「血も涙もない組織だ。人数や技術力、予算など、物理的に可能な限度を超えた要求をされた」もんじゅ存続の陣頭指揮を今夏まで執ってきた馳浩・前文科相は9月29日夜、BSフジの番組で、規制委への恨み節を語った。
もんじゅのような高速増殖炉は、発電しながら燃やした以上のプルトニウムをつくれる「夢の原子炉」と呼ばれた。天然資源に乏しい日本にとって、輸入に頼らない国産エネルギーは悲願だった。
1994年4月に初臨界に成功。計画が順調に進み始めた矢先の95年12月、ナトリウム漏れ事故を起こした。組織そのものを一新して再出発を図ろうとしたが、2010年に燃料交換器の落下事故が起きた。12年以降も点検漏れや警報放置などトラブルは続いた。
東日本大震災後、原発に対する社会の視線が厳しくなる中、規制委は、原子力機構の組織体質に厳しい態度で臨んだ。管理体制を見直したと原子力機構が報告するたびに、規制委の検査で新たな違反が見つかる繰り返しに、規制委は危機感を強めた。文科相への勧告に至った。
▶プルトニウムの処理、課題
日本の核燃サイクルは、もんじゅのような高速増殖炉でプルトニウムを増やす高速炉のサイクルと、プルトニウムとウランを混合したMOX燃料を原発で使うプルサーマル発電の二本立てだ。
もんじゅは、使用済み核燃料を再処理してプルトニウムを取り出し、再利用する核燃サイクルの中核とされてきた。もんじゅに廃炉の方向性が示されても、描いてきた核燃サイクルの枠組みを維持するために、政府は高速炉開発会議を設ける。
だが、高速炉サイクルの実現は遠い。日本はすでに、海外に再処理を依頼して取り出されるなどしたプルトニウムを、国内外に約48トン保有している。核兵器の原料にもなるプルトニウムを、使う見込みがないまま大量に持つことは核不拡散上、極めて不適切だ。そのため、政府は当面、プルサーマルでサイクルをまわし、プルトニウムを消費する方針だ。
「プルサーマルをしっかり推進していくという方針に変わりありません」 世耕弘成・経産相は9月23日、閣議後会見でこう語った。だが、プルサーマルの導入は進んでいないのが現状。現在、稼働しているのは四国電力伊方原発3号機(愛媛県)しかない。
18年には、日本に例外的にプルトニウムを抽出する再処理を認める日米原子力協定の改定を迎える。米国が引き続き再処理を認めるのかが注目される。日本がプルトニウムをどう減らしていくのかの議論は待ったなしだ。(東山正宜)
▶高速増殖炉と高速炉、どう違う?
■高速炉と高速増殖炉
最近、高速増殖原型炉「もんじゅ」の廃炉や日本の核燃料サイクルの問題が議論される際、「高速増殖炉」と「高速炉」の二つの似た言葉が出てくる。どう違うのか。
高速増殖炉と高速炉は、同じ構造の原子炉だ。燃料にはプルトニウム(主にプルトニウム239)とウランを混合したMOX燃料を使う。核分裂で発生した中性ログイン前の続き子が秒速約2万キロの「高速」で炉内を飛び交う。
高速中性子がプルトニウム239に衝突して原子核1個が核分裂すると、3個ほどの高速中性子が飛び出す。そのうち1個が燃料のプルトニウムに当たれば核分裂が継続し、発生したエネルギーを発電に使える。残った2個の中性子をどう利用するかで、高速増殖炉にも高速炉にもなるのだ。
高速増殖炉では、燃料の周囲にウラン238を配置する。核分裂しにくく燃料にならないが、高速中性子が衝突すればプルトニウム239に変わる。1個のプルトニウム239が核分裂して、計算上は2個のプルトニウム239に「増殖」できるため、高速増殖炉と呼ぶ。使った以上のプルトニウムを生み出す「夢の原子炉」ともてはやされた。
一方、高速炉は原子炉に普通の原発で発生した高レベル放射性廃棄物に含まれる放射性物質を入れる。この放射性物質に高速中性子を衝突させ、比較的扱いやすい別の物質に「核変換」させて、廃棄物の量や危険性を減らすとされる。プルトニウムは増殖しないため単に高速炉と呼ぶ。
欧米諸国は戦後、こぞって高速増殖炉の開発に乗り出した。日本も原発が1基もない1956年に国産化を国策に掲げた。実験炉「常陽」に続いて原型炉「もんじゅ」を建設し、実用化を目指した。
しかし、実用化にはほど遠く、米国や英国、ドイツはすでに開発から撤退。実用化直前の実証炉まで動かしたフランスも現在、稼働中の炉をもたない。
発電にこぎつけてもコストが普通の原発より高く、経済性がない。核兵器の材料にもなるプルトニウムも増える。そこで、プルトニウムの増殖をあきらめ、「核のゴミ」を減らす高速炉の考え方が出てきた。
高速増殖炉として使おうが、高速炉として使おうが、冷却材に液体ナトリウムを使う。水と爆発的に反応するため扱いが難しく、技術的な困難さは変わらない。日本原子力研究開発機構・高速炉研究開発部門の中村博文・企画調整室長は「液体ナトリウムを扱う技術が成熟していない」と話す。(編集委員・上田俊英)
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