もんじゅも高速増殖炉も廃止せよ

■核武装をあきらめられない面々

▶もんじゅ廃炉をめぐる角逐(かくちく・互いに競争すること。せり合うこと)

 9月21日、「高速増殖炉『もんじゆ』について、政府は廃炉に向けた最終調整に入る」との報道が駆けめぐった。心ある人々は、巨額の税金を無駄遣いし続けた高速増殖炉「もんじゆ」がようやく廃炉になる、と安堵の思いをかみしめただろう。

 しかし、政府も原子力業界も、「もんじゅ」と「高速増殖炉開発」の失敗を認めたわけではない。ましてや、その責任を取るわけでもない。

 それどころか、「もんじゆ」以後の新たな利権構造が作られつつある。再稼働の見通しが立たず核燃料サイクル路線の足を引っぱるだけの「もんじゆ」に見切りをつけ、新体制で再処理工場を稼働させ、新スキームでより巨額の資金を集める、そんな焼け太りを狙った賭けに打って出ている。

 一方、「もんじゆ」を再稼動させようという動きもある。文部科学省、原子力研究開発機構の面々は巻き返しを狙っている。

 「もんじゆ」推進派の唱える理屈は、廃炉にして「高速増殖炉計画」を止めると核燃料サイクル政策が成立しなくなり、使用済燃料の再処理も推進できなくなるというものだ。しかし周囲を見ると、米国すなわち世界最大の原発大国は、早い段階で「高速増殖炉計画」を断念している英国も再処理工場を維持しつつ「高速増殖炉計画」を中止した。世界に31ある原発保有国で、21世紀になっても「高速増殖炉計画」を進める国は、日本以外にはロシア、中国、インドくらいだ。

 フランスが進めているとされる「アストリッド(ASTRID)高速増殖炉計画」は「何処に何を誰が作るのか」さえ決まっていない机上の話に過ぎない。にもかかわらず原発は動いている。つまり、日本のように原発が高速増殖炉計画とセットになっている国は限られているのだ。

 日本は核燃料サイクル計画において使用済燃料の全量再処理を方針とした。取り出したプルトニウムは現時点で48トンにものぼるが、高速増殖炉計画を止めるとその使い道がなくなる核兵器製造に直接結びつくプルトニウムが蓄積され続けることは、大きな問題になっている。もちろん、再処理をしなければいいだけの話で、実際、米国をはじめ再処理そのものを止めた国はいくつもある。

 再処理を止めた場合、使用済燃料をどうするかが次の問題になる。再処理路線を転換するならば、使用済燃料と高レベル放射性廃棄物を受け入れてきた青森県は、その核のゴミの撤去を要求するだろう。六ヶ所再処理工場と高レベル放射性廃棄物の一時貯蔵施設を受け入れる際に、そのことを約束した政府との合意書があるからだ。約束した政府は、青森県と真摯に向き合う義務がある。その結果として、核燃料サイクル施設の建設と維持にかかってきた巨額の費用、廃止措置にかかる費用は無駄ガネになってしまうが、今後も推進するよりは傷は小さい。

 原子力開発利用長期計画に高速増殖炉サイクルを最終形とする開発計画が登場するのは1967年。そこでは、高速増殖炉が「昭和50年代後半」(1980年代前半)に実用化することが目標とされた。ところが2000年の第9回の長期計画ではついに目標とする年度が消滅してしまい、計画そのものが絵に描いた餅になったことが明らかになった。しかし、計画に巨額の投資を続けてきたため確固たる利権集団が構築され、軌道修正がままならなくなっていた米国の軍産学複合体と似た構造の、地方自治体を含めた核複合体が日本にも形成されていたのだ。

 日本は核燃料サイクル計画において使用済燃料の全量再処理方針とした。ところが高速増殖炉計画を止めると現時点で48トンにも上る取り出したプルトニウムの使い道がなくなることが一番大きな問題になる。もちろん、再処理をしなければ良いだけの話だ。実際に米国をはじめ再処理そのものを止めた国はいくつもある

 再処理を止めた場合、使用済燃料をどうするかが最大の論点になる。再処理路線を転換するならば、現在核のゴミを青森県は使用済燃料と高レベル放射性廃棄物の撤去を要求するだろう。六ヶ所再処理工場と高レベル放射性廃棄物の一時貯蔵施設を受け入れる際に、そのことを約束した政府との合意書もある。

 約束した政府は、青森県と真摯に向き合う義務があるのは当然だ。核燃料サイクル施設の建設と維持、そして廃止措置に掛かる巨額の費用は,全く無駄な投資になってしまうが、今後も強引に推進するよりは傷は小さい。

 原子力開発利用長期計画に高速増殖炉サイクルを最終形とする開発計画が登場するのは1967年。そこでは、高速増殖炉が「昭和50年代後半」(1980代前半)に実用化することが目標とされた。ところが2000年の第9回の「長計」ではついに目標とする年度が消滅し、計画そのものは絵に描いた餅に過ぎないことが誰の目にも明らかになっていた。しかし核燃料サイクルに巨額の投資を続けてきたため確固たる利権集団が構築され、軌道修正さえままならなくなった。

 米国の軍産学複合休と同じような構造が、地方自治体も含めた核複合体として日本にも形成されていた。そのため兆を超える金が注ぎ込まれても止めることさえ出来なかったのだ。

サイクルにならない核燃料サイクル計画

 原発を動かすウランは、天然資源の一種であり、鉄鉱石のように鉱山から採掘し精錬加工を経て燃料に使える状態になる。ウラン鉱山では採掘に伴い鉱さいが大量に発生する。この中にさまざまな放射性物質が含まれ、周辺環境を汚染し住民を被曝させている。原発はスタート地点から環境や人体に有害な存在であった。

 核燃料サイクルとは、採掘したウラン鉱石を製錬し、核燃料に使えるまでにウラン235を濃縮し、燃料として燃やした後の使用済燃料を再処理し、取り出したプルトニウムやウランを再度燃料として使うサイクルのことを指すが、実はサイクルになっていない。

 再処理で取り出される核分裂性物質は、プルトニウムが1%、ウラン235が1%、あとのほとんどはウラン238だ。これらは再利用できると言ってきたが、現段階で再利用できているのは、MOX燃料体(プルトニウム燃料体)に加工しているプルトニウムの1%だけ残りの99%を占めるウラン及び高レベル放射性廃棄物は使い道がない。さらに、その処理、処分の見通しも立っていない。

 ウランも再利用するとしているが、高レベル放射性廃棄物に汚染されていて燃料加工工程に持ち込むと、設備全体が汚染されて作業被曝のリスクが格段に高まる上、拡散や漏えい防止対策のための改造による作業性の悪化でコストも莫大となる。経済性が全く合わないため、将来にわたり実現する見通しはない。

 一方、高速増殖炉計画では、推進理由の一つとして高レベル放射性廃棄物の減容化(量を減らすこと)も含まれている。中性子の量が軽水炉の倍以上の炉心特性を利用し、核燃料の中に高レベル放射性廃棄物を入れて、照射による核分裂を促進し短寿命化するというものだが、これは言うほど簡単な話ではない。

 再処理で分離した高レベル放射性廃棄物の中から、高速炉での照射に適する核種を選んで分離し、燃料に加工することは技術的に極めて困難だ。また、それができたとしても照射に伴い放射線量が一時的に大きく増加するなどで危険性も増大してしまう。

 しかも、対象となる廃棄物そのものがわずかな量でしかない。これでは何をしているのか分からなくなる。

高速増殖炉計画」は、もともと再処理で取り出したプルトニウムを燃やす計画だ。その時に混入する高レベル放射性廃棄物の一部も同時に燃やせるとの触れ込みだったので、その部分のみを取り出して別の計画を作ったのだろう。しかし、設備がそのような目的で開発されていないのだから、到底無理なのであるり高速増殖炉開発の「有効性」を宣伝するための詭弁でしかない。

▶経産省の権益への執念

 「もんじゆ.」以後はどうするか。国では既に大きな動きが始まっている。ふつうならば、20年以上かけた巨額のプロジェクトが投資に見合う成果を上げられないのだから「高速増殖炉計画」から撤退し、核燃料サイクル計画の推進を考え直すべきだ。世界の趨勢もそうなっている。しかし依然として計画を続行しようという勢力が大きな力を持っている。

 高速増殖炉計画は「試験研究」段階で、1967年のスタート時点では当時の科学技術庁(総理府が所管していた。「もんじゆ」の設置許可は内閣総理大臣が許可している。

 省庁改編により科学技術庁は消滅し、「もんじゆ」は文部科学省(文科省)に所管が移った。運営主体も動力炉・核燃料開発事業団が担っていたが、度重なる不祥事により10年前に原子力研究所と合併させられ原子力研究開発機構に再編された。原子力規制委員会は、その原子力研究開発機構に「もんじゆ」の運営能力がないとして、事業体の交代を求めたが、いまさら「もんじゅ」を引き取り巨額の費用をかけて運転をしようとする組織が現れるはずはない。

 

▶海外の高速炉技術は地震国に不向き

 10月7日に開かれた「高速炉開発会議 第1回会合」では、世界の高速増殖炉開発計画の現状なるものが経産省から説明された。図の「各国の取り組み状況」を見ると、現在開発を進める全ての国が「タンク型」と呼ばれるタイプで開発を進めていることがわかる日本だけが「ループ型」を採用し「もんじゆ」を作ったのだ。

 ループ型とタンク型の最も大きな違いは、炉心と一次冷却系統の作りであるタンク型は熱交換機や一次冷却材ポンプを含めて全てを大きな容器に収納し、全体をナトリウムで埋めている。

 ループ型は炉心をコンパクトに作り、一次系と二次系の系統配管を引き回すことで炉心から水系統を隔離する設計になっている。

 問題はその耐震性だ。タンク型は巨大で重い構造なので、十分な耐震性を持たせることは困難なのだ。ループ型は配管こそ耐震性で厳しい環境にあるが、原子炉容器などは軽くなるので有利である。さらに「もんじゆ」の後継の実証炉では耐震だけでなく免震構造を併用するといった構想もあったが、タンク型ではそれも不可能だ。日本がいまさらアストリッド計画に参加をしても、ループ型をべースに開発してきたため、技術開発の節が成り立たない。タンク型では日本の地震環境では作ることが困難だ。ただでさえタンク型はループ型よりもコストが掛かるのに、耐震性を強化すれば、費用はさらに巨額になる。結局「高速増殖炉計画」はプラントの技術開発としても、到底成り立っものではない。

 この種の改造を革新的にコストダウンすることは革新的にできない。今の原発の耐震補強工事が原発を建てる費用に迫る巨額なものであることからも、そのことは明らかだ。

プルトニウムを手放さないという意志

 日米原子力協力協定は、不平等性の大きい条約である。条約の取り決めでは、米国に原子力開発に関する大きな発言力が認められている。その反映の一つが、3.11の後に現れた。当時の民主党政権が2030年代までの原発からの撤退を決定しようとした時、大きな横やりが米国側から入った。それをはね除けられない日本側に問題があるのだが、これも日本が米国のアンダーコントロールにある証拠とも言えよう。

 1968年に最初に締結された条約は1988年に2度目の改定をし、30年後に再度延長交渉を行う。2018年がその年にあたり、「2018年問題」ともいうべき課題が発生している。

 この改定時に日本側がどのような提起をするのか、米国は協定内容についてこれまでとをま異なる要求を出すのかなど、経産省だけでなく外務省でも重要な外交テーマになると見ている。 核兵器開発にも繋がる陰干カ技術は、その多くが米国の開発したものであり、日本に移転するにあたり米国側の大きな権利が認められた。

 例えば、日本が核兵器の開発に踏み出した(第8条の規定で「核爆発装置の研究または開発の禁止」と表現される)と見なせば、米国は米国由来の核物質ウランやプルトニウム(米国から技術移転された原子炉で燃やされたり生産されたり、生成された他国産の核物質も含む)を引き上げることができる。以前は米国由来の技術を活用するにも同意が必要だった。この点については、1988年の改定時に「個別同意から「包括同意」に緩和された。六ヶ所再処理工場は、この包括同意で核燃料再処理が認められているから条約上は日本はいつまでも六ヶ所再処理工場を稼働できる。

 しかし、高速増殖炉計画が頓挫し、日本の大量のプルトニウムが「使うあてもなく」残留するとなると、条件が変わってくる。国際世論の非群が高まれば、燃料や技術の引き上げを要求するかもしれないあるいは再処理計画の中断を求める可能性も出てくる。条約は2018年以降は双方が6ヵ月の事前通告期間を経て終了を通告することができる。

 高速増殖炉を含む核燃料サイクル施設は、核武装国を除いては認められていない。唯一の例外が日本だ。これを権利だとして、既得権益を守るため日本政府は強い危機感を持って臨もうとしていることだけは確かである。

 この条約を所管するのは外務省原子力課、正式名称は軍縮不拡散・科学部内の「不拡散・科学原子力課」と「国際原子力協力室」である。

▶「常陽」活用の目的は核兵器だ!


 「高速増殖炉計画」を維持するためには、「もんじゅ」に代わる何らかの設備が必要になる。候補に挙がっているのが高速増殖実験炉の「常陽」だという。

 茨城県大洗町、東海村の隣のひたちなか市に立地している「常陽」は2007年に発生した装置の破損事故により運転が止まっている。炉心内に落下したと見られる部品の回収や補修作業を2015年に終了したとされるが、3・11以後に制定された新規制基準の適合性審査を通っていないので、動かせる状態にはない。しかし日本原子力研究開発機構は今年度中に規制委員会に対して適合性事査の申請を行うとしている。

 しかし「常陽」と「もんじゆ」との関係は、実験炉と原型炉であり、その逆ではない。いまさら実験段階からやり直すなど、何がしたいのか分からない。既に「常陽」は「高速中性子炉」に改造されており、中性子照射の材料試験を行っていた。それを高速増殖炉計画に戻すことは無駄以外の何ものでもない。

 この、あまりに無茶な計画の背景には、RETF(リサイクル試験施設)という設備の建設問題がある

 RETFは既に建物と配管室の一部ができているが、機器類はまだ製造されていない。「常陽」と「もんじゆ」のブランケットと呼ばれる、中性子を照射して高純度のプルトニウム239を生成する燃料体が炉心外周部に設置されていたRETFは、このブランケット燃料体を再処理するために東海再処理工場に併設して作られている施設だ。「もんじゅ」が動かせる状態にないため、機器類を作って設置しても再処理する燃料は「常陽」の古い照射済ブランケット燃料体に限られる量が少なく再処理しても約20キロほどのプルトニウムが取り出せるだけだ

 これに、「もんじゅ」の試験運転期間中に生成されたプルトニウム62キロを合わせると、核兵器20発分程度は精製可能かも知れない。「常陽」ブランケットは純度99.4%、「もんじゅ」ブランケットは、97・5%の兵器級プルトニウムが得られる。

 このプルトニウムを手に入れるには、RETFを完成させ稼働させなければならないが、高速増殖炉計画が存在しないと、1200億円もの費用を投ずるRETFの存在理由がない。

 戦術核兵器級プルトニウムを手に入れるには、どうしても「常陽」による開発続行という幻影が必要になる

 こんな恐ろしいものを取り出させてはならない。まさしくパンドラの籍の「様々な邪悪なもの」だ。しかもここには「希望」はない。

 希望は「高速増殖炉計画からの全面撤退」と核武装計画への道を断つことだ。