1万年かけての作物品種改良
■1万年かけての作物品種改良
見事に実ったトウモロコシの実を見慣れているかもしれませんが、トウモロコシの祖先はどんなものだったのでしょう?約6千から8千年前、メキシコにいたネイティブ・アメリカンがトウモロコシの祖先であるブタモロコシを少しずつ栽培に適したものへと変え始めました。メキシコには今でも野生のブタモロコシが残っています。ブタモロコシは、堅くて厚い種皮に包まれたとても小さな種を持つ穂をつけ、種は乾燥すると地面に落ちます。植物の姿も背の高い1本の茎を持つ現在のトウモロコシのようではありません。人間の手によって遺伝子が改変されてブタモロコシはトウモロコシへと変化してきたのです。トウモロコシは、おそらく2万5千を超える遺伝子を持っていますが、過去5千年間に人間の手によって、そのうちどれだけが変異を加えられたり、削除されたり、並べ変えられたり、あるいは増幅されてきたかは想像もつきません。こういった遺伝子の改変は人間にとって都合が良いものでした。というのは1エーカー当たりのトウモロコシは1エーカー当たりのブタモロコシと比べて千倍もの食糧を生産できるからです。
メキシコ、アイオワ、ケニヤ、イタリアなどのトウモロコシが育つどの地域を旅しても、畑や庭以外でトウモロコシが育っているのを見ることはありません。それは、トウモロコシが私たち人間の助けなしでは生きられないからです。トウモロコシは自然の植物ですが、自然の中では生きられないのです!
トウモロコシの話は、他の作物にも当てはまります。小麦、米、大豆などはすべて遺伝子の改変によって作られたもので人間の手を借りずに育つことはできません。野生の植物を栽培に適した作物にすることは、約1万年前に中国南部と中東で、8千年前に西アフリカと中央メキシコで始まりました。
訳注:トウモロコシの話がピンと来なかったら、秋の風に吹かれる水田の黄金色の稲穂を思い浮かべて下さい。イネの野生種も少ししか実を付けず、イネもトウモロコシ同様にヒトの手を借りずには育ちません。その辺りの空き地にコシヒカリは自生できません。
▶品種改良において遺伝子は改変されます
20世紀に入ると農家や育種家はより効率的に作物の品種改良を始めました。最初は、ただ、畑で同じ種の植物を交配して雑種を作るだけでした。1950年頃、育種家は種を超える雑種を作る実験を始めました。異なる種を交配し、小さな胚を実験室で培養して育てたのです(そうしなければ、異なる種間の交雑では胚が死んでしまうからです)。このような交配から何世代にもわたる育種を経て作物品種が作られました。ライ小麦と呼ばれる主要な新しい穀物は、小麦とライ麦をこのように交配することで作られたのです。
続いて放射線育種が始まりました。種子はガンマ線を照射され、そのDNAの一部が壊されました。DNAをなんらかの方法で変化させれば農家にとって都合が良いことが起こるだろうという考えに基づくものでした。後にこの考えは正しかったことがわかりました。そして、通常の品種改良と同様に6から10世代の交配を繰り返すことで、すべての「都合の悪い」DNAが除かれ「都合の良い」DNAだけが残されたのです。突然変異を誘発するために化学物質も使われてきました。今ではこういった方法によって生み出された何百種もの作物品種があります。有機農業を営む農家や遺伝子組換えに反対する人たちは、このような、人が行った品種改良を「自然に起こるもの」と認めますが、遺伝子組換え技術による革新的な品種改良は「自然には起こらないもの」とみなします。
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