笑意軒

163 梅の馬場の中途で左に折れると道は笑意軒に向かい,やがてその木戸に達する.以前は路地門の思い入れで御腰掛もあったといぅが,いまは失われている.桂離宮の3つの茶屋のうち,おそらくこれがもっとも新しくひらかれたものであろうか・この建物はとりわけ建物の建造とときを同じくしてひらかれたと思われる堀割越しに眺める姿が好ましく,むしろ近寄っての空間そのものよりも,外観の印象のほうが強いくらいである・細く端整な切石の列が水辺を直線的に限り,緑の斜面の上に田舎家風のシルエットが浮ぶその遠望が,庭園の隅部の押えとして格好の景を演出しているのである.

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 笑意軒の名は「一枝漏春微笑意」からとったものという・平面はここでも北面する深い土庇の奥に,西から広い膳組所,7畳半の次の間,6畳の中の間,一の間3畳と一列に並んで中の間の北にさらに口の間4畳が付されている・平面の幅は西から東へとしだいに細くなるので,その雁行によって土庇がだんだん深くなっていくのである.

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 口の間沓脱前の腰高障子の上の小壁には円形の下地窓が6つ一列に並び,その上に八条宮智仁親王の兄にあたる蔓殊院良恕法親王筆の額がかかる.正面の中の問奥の窓には中敷居を入れて低い腰壁がとられ,そこに舶載のビロードが貼り付けてある・いわゆる「唐渡り天鷲絨黒地ツナギ石畳切」で,金と紺の格子の三角のビロード片が斜めに走る線を見せている。

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 また一の間の付書院は松皮形,次の間の袋棚の小襖はたらし文様と,控え目ながらそれぞれに意匠上のアクセントが配されている・次の間は北に竃土と五重の釣棚が造り付けられているほか,南に半間幅の章子縁が配されて,その外に竹の縦横がまばらに打たれている・この南側の窓からは,むかし隣接する田畑の景が眺められ,それが庭の遊びに一興を添えたという.笑意軒を背に再び御殿の方へと向かえば,今度は新御殿と中書院のふたつの破風が雁行する御殿の南の立面 が美しく望まれる.その手前の芝生の広がりは,かつて鞠場や弓場のあったところである.舟溜りを手前にして笑意軒北面全景.茅葺き寄棟造りの主産に柿葺きの土庇が北と東を巡る。181180 179 182-1 182183