松琴亭の西面は切石で直線的に構成された舟着で,珍しく自然石の少ない部分である.ここから先の池水には,御殿の拡張工事に伴って新しく拓かれた部分もある.道は螢谷へと向かうが,ちょうど逆光になるので行く手は蔭となり,それゆえにいっそう奥深い谷に入って行く思いが生れる.やがて突当りで道は3つに分れるが,いちばん右手,谷をまたいで架けられた土橋を渡ると道は急に険しさを増し,賞花亭のある山へと登って行く.再び北へと折返して行く坂道の眼下に松琴亭の屋根が望まれることで,高きに在る思いがさらに強められる仕組みである.
この賞花亭のあるつつじ山も池を掘った際の土によると思われるが,文献はかつて山上小事があったことを伝えている.これはおそらく,山頂にあって四方をあまねく見渡す遍界一覧の亭の系譜に繋がるものであったろう.しかしそれが失われた後,今出川の本邸の龍田井の近くにあったものを移築したこの亭は,やや低く池の眺めに向かって配された.