花開く都城文化
■はじめに・・奈良文化財研究所の国際共同研究・国際支援事業
▶︎奈文研の海外交流
奈文研の海外の研究者との交流は、記録に残る限り、木製遺物の保存法の検討のために、昭和45年(1970)にデンマーク国立博物館のB・B・クリステンセン氏を招碍したのが始まりである。海外の技術導入のために海外の研究者を招碍する例としては、写真測量技術の指導を受けるために、昭和47年(1972)にオーストリア連邦記念物局のH・フォラミッティ氏の招聴例がある。木製遺物の保存、文化財の写真測量は、その後、奈文研を通じて、日本への導入が図られ、広く普及した。
また、奈文研が招聴したり、受け入れた研究者をみると、その早い段階から、欧米先進国ばかりでなく、韓国、インドネシア、モンゴル、アフガニスタン、イラク、トルコ、などアジア諸国からの研究者が多いことも注目される。
一方、奈文研の研究者も文部省の在外研修制度や科学研究費などを利用して在外研究を実施してきた。記録では、1968年に西谷正氏が「韓国における古代都城制形成過程の研究」のために、韓国に派遣されたのが最初である。
こうした中、1989年におこなわれたラオスにおけるワットプー遺跡の保存事業を皮切りに、奈文研が機関として組織的に関わる国際共同研究、国際支援事業が開始され、長期にわたる継続的な事業もおこなわれるようになった。2012年までに、国際共同研究、国際支援事業で奈文研が関わりをもった国と地域には、アフガニスタン、イラク、インド、インドネシア、ウズベキスタン、カザフスタン、韓国、カンボジアキルギス、台湾、タジキスタン、中国、チリ、ベトナム、ミャンマー、モンゴル、ラオス、ロシア(五十音順)などがある。
最新の統計では、2011年度に奈文研が招聴したり、受け入れた海外からの訪問者を国別にみると、タイ(同20名)、中国(同17名)、ベトナム(同17名)、韓国(のベ11名)、インドネシア(同5名)など23以上の国と地域におよぶ。また、奈文研職員の渡航先は、中国(のベ59名)、韓国(同36名)、カンボジア(同29名)、ベトナム(同28名)なヒ24の国と地域であった。この結果、奈文研は、当年度には37の国と地域と交流があったことになる。
現在、奈文研は、中国社会科学院考古研究所、遼寧省文物考古研究所(1996年開始)、河南省文物考古研究所(2000年開始)と国際共同研究を実施するなと中国との交流が大変活発である。しかし、日中国交回復が遅れた(1972年)こともあり、記録によると、中国人研究者の受け入れは、1983年の蔡鳳書氏(山東大学)が最初で、韓国などとの交流に比べると、中国との交流は後発だったことがわかる。また、1985年には坪井清足所長(当時)を団長とする奈文研代表団が中国社会科学院考古研究所を訪問したが、その後の交流も単発的なものであった。
そうした状況は、1991年に中国社会科学院考古研究所との間で友好共同研究議定書が調印されたことで変わった。この議定書は、両研究所で、日本古代都城と中国都城との考古学的比較研究を主題とする計画的な共同研究を実施し、研究者の交流ならびに、学術情報・資料を交換することを趣旨としていた。5年の有効期間は必要に応じて延長でき、現在、第5次友好共同研究議定書調印の準備が進められている。この間、洛陽自居易故居(1993)、洛陽永寧寺(1994)、漢長安城桂宮(1997−2000)、唐長安城大明宮太液池(2001−2005)、漢魂洛陽城(2008−2011)の発掘調査や関連資料の調査が共同でおこなわれ、奈文研からも多くの研究者が現地に長期滞在しながら発掘調査に参加するなじ研究者の交流が進むとともに、調査方法を含む学術情報・資料の交換がなされた。また、共同研究の成果は、奈文研史料第47冊『北魂洛陽永寧寺』(1998)、奈文研学報第85冊『漢長安城桂宮』(2011)の2冊の報告書に結実するとともに、飛鳥資料館特別展『束アジアの古代苑地』(2005年)として、一般に公開された。
▶︎韓国国立文化財研究所
韓国との学術交流の歴史は長い。先述のように1968年には西谷正氏が「韓国における古代都城制形成過程の研究」のために、韓国に派遣されている。また、これも先述のクリスチャンセン氏来日と同じ1970年、文化財管理局文化財研究室(現・国立文化財研究所)の金東賢氏を受け入れている。
この1970年の金東賢氏の受け入れが示すように、韓国国立文化財研究所とは、前身である文化財研究室が1969年に創立されて以来、緊密に交流している。記録では、特に1977年以降、毎年のように、その研究者を受け入れてきている。そして、1999年に、共同研究を両所の事業として位置付け、組織的な交流形態に発展させ、研究内容をさらに向上させるために、姉妹友好共同研究協約書を締結した。両研究所は、この協約書にもとづき、日本の古代都城ならびに百済・新羅王京の形成と発展過程に関する共同研究、古代生産遺跡に関する共同研究などを進めた。その後、2005年度に中期計画策走にともか、各事業を見直し、独立行政法人文化財研究所(当時)と韓国国立文化財研究所との研究交流協約書を締結した。その枠組みの中で、奈文研と韓国国立文化財研究所は日・韓共同研究合意書を締結し、「日本の古代都城並びに韓国古代王京の形成と発展過程に関する共同研究」を実施することとした。
2006年度には韓国国立文化財研究所のもとにある国立慶州文化財研究所と発掘調査交流協約書を締結し、共同発掘調査を開始した。慶州の四天王寺址や月城核子、九黄洞苑地、チョクセム遺跡などの新羅王京関連遺跡の発掘調査と、平城地区および飛鳥・藤原地区の発掘調査に両所の研究員が相互に参加しながら進めている。
これらの協約類は2011年度に新たな5カ年計画とともに見直しと更新をおこない、現在は「日韓古代文化の形成と発展過程に関する共同研究」ならびに発掘調査交流を継続して実施しているところである。
このような多岐にわたる交流の結果、多方面における研究の進展とともに、調査研究に関する相互理解が深まり、更なる研究交流の礎が形成されてきている。また、共同研究の成果は、奈文研学報第77冊『日韓文化財論集1』(2008)、同87冊『日韓文化財論集㈼』(2011)などとして刊行された。
(加藤真二 飛鳥資料館)
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