ちからのかたち

92■ささえ=支持

 ささえ=支持日本人にとって,支持の象徴は柱である。ヨーロッパの石造住宅のように屋根の重みが壁に一様に分布してかかるのでなく木造の日本では,重さはすべて柱に集中し柱ほそれを受けてたつ。大社造の心御柱や民家にみられる大黒柱の信仰は塵が集約的に力を受けてたつ。支持の姿からきているのであろう。

 柱は重力支持という機能をこえて、人びとの心の支えになったのである。力を支える柱が心の支えにもなったように支持形の中にほもっとも強く人間の意欲がすみついている。圧縮する力に抗するものは両足をふまえたように反るかたちが多く建築の小壁にあるかえる股などは、すでに圧縮力を受けない程に装飾化しても、いぜんとして股を開き足をふまえたかたちをとる。

 そしてそれをみるわれわれにもそのかたちが上からの力に抗する姿であるとき美しくたるみをみせているときはみにくく,眺められる。引張る力に抗するものほぴんと張った均整を強調する。われわれは釣り糸や釣り金物をことさら長くみせてその姿をうたわせるし釣る,懸ける,掛ける左ど引張力に応ずるかたちは沢山ある。

 多くの釣るという文字のついたものの他に掛札・掛軸・懸帯・懸盤のたぐいがあり俗にたすきをかけるというのも,引張りと関係があろう。釣られた梵鐘に必ずたすきと呼ばれる紋様があるのは、重い鐘を釣り支える心が装飾となって残ったものだろうか。

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■ささえ=支

 (ささえ=支)行燈や賽銭箱の足,琴の蛙などは,いずれも下にゆくほど外側に反り出て,いかにものしかかってくる力を,せいいっぱい支えかえしている姿である。それほどの力がかかっていなくても,われわれはそのかたちをみることで,その中に支持の力の走りをみとめ,安定を感じとる。そして,これらの反りの度合いは,実は重力そのものの大きさに対するよりは,視覚的な重力と支持力の釣合いによって,きめられているのである。

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■つり=釣

 (つり=釣)上昇性よりも下降性に心ひかれる日本人は,釣り下げた平衡のかたちをこのむ。農家のいろりに釣られた自在鈎お寺の釣鐘,春日大社の釣燈寵,花器にみられる釣舟や釣月,かぞえあげればきりがない。そしてこれらは,高く釣り上げられて仰ぎみるのでなく,いずれも低く釣り下げられて眺められる。魚釣りや北国の子供たちがやる雪釣りなど,釣は遊びにまでなっている。

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■はり=張

 (はり=張)凧や舟の帆のように,風を受けて張るものもある。弓や罠のように,つるの力で張るものもある。これらのかたちは,張力との緊張を予想してつくられる。そして太鼓やつづみ,琴や三味線は,その張られた緊張によって,音を発する。だからこれらのかたちは,張力を失ったとき,ゆるみ乱れてみるべくもない。しかし一方では,茶入れや花器などに,尻張(しりばり)と呼ばれて,別に張力の加わりもないのに,張ったかたちが様式の名になっているものもある

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■しき=敷

 (しき=敷)畳を敷き,蒲団を敷くのは,上に乗るものを予定してのことである。ただ敷くだけでは置くのとかわりないが,敷くといわれるときは,必ずその上にものが置かれて,ものの重みを受けとめる。円座も座蒲団も,上にすわるひとの重みを予想してつくられる。薄い木でつくられる折敷は,すでにその名前に敷という字がついている.そして,ただ皿の上に菓子を置くのでなく,菓子の下に一枚の木の葉を敷く風情は,日本だけのことであろう。

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 ■まがり=転曲

 (まがり=転曲) ひとの運命や性格が,手相や骨相によって計りうるものであるかどうかわたしは知らない。だが,ひとの心が何よりはっきりあらわれるのは表情である。だから俳優は,目もとやロもとで心の動きをあらわし女性は眉をつくり,口紅をつけて化粧する。歌舞伎のくまどりや神楽面や能面の表情をもっとも決定づけているのはその曲線や曲面のまがり具合である。

 まがりは内部の心,内部の力が表にあらわれた姿である。民族の心を知るにはその民族文化にあらわれた曲線に注目するのが早い。まがりは,他のさまざまなかたちにくらべて使用目的や技術の特性や材料の性質に規制されることが少なく、もっとも自由にもっとも率直に、心の内なるものを反映しやすいところに、あらわれるからである。

 日本の古建築は,シナの木造建築に由来しながら何故その屋根の反りはこんなに優美になったのだろう。両端で急激に反りかえるシナの屋根となだらかな日本の反りの相違は何に起因するのだろう。青竜刀の反りの違いは何からきているのだろう。さまざまな曲率をもってあるときは反り。あるときは起(むく)り内部の性格は表面に露呈し、内部の力は外部に発散してそれそれのまがりのかたちとなって固定する。

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■まる=丸

 (まる=丸)日本の国旗が,何を表徴しようとして日の丸にきまったのか,その事情はわからない.それは「日出る国」の太陽であったかも知れない。が,がいしてわれわれが丸に感じるのは,円満な相である。

 紋様では,一つの円は円相,同心円は蛇の目,多くの円は丸づくしと呼ばれる。紋章にも,丸でかこまれたものが多い.

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■まがり=曲

ななななな

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■そり=反

(そり=反)反りは,空間にひびきを送るかたちである。日本の屋根の反りが,まわりの山なみと呼応する姿は美しい鳥居の笠木の反りも,勾欄の端部の反りも,和舟の竜骨の反りも,外部空間にむかって余韻を送る。そして日本刀や兜の鍬形やか鏑矢の矢鎖のような,武器の反りは,その対するものに送るひびきも,ひときわ鋭い。

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■むくり=起 反対語は反りである。

(むくり=起)起りは反りと反対のかたちである.反りが外にむかってたつ男性的様相なら,起りは伏しておだやかな女性的姿である。この相違は,反屋根と起屋根の周囲におくるひびきのちがいで女性のかぶった市女(いちめ)笠,雲水のかぶる網代笠が,いずれも起りのかたちであることからも知れよう。文箱や茶人れや花器など,起りは温和な生活にかかわる器物の姿にあらわれる。

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