紙で包む

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■和紙には自然のイメージ心をなごませるやわらかさ、ほのぼのとした暖かさがそのまま生きている

 木、竹、笹、わら…それらはいずれも天然の素材である。自然の恵みとして身近にあったものを巧みに利用しているのが伝統パッケージの特徴だが、紙だけは人間が新たにつくり出した、その意味では最も手のこんだ材料である。しかし、伝統パッケージの材料として使われる紙のほとんどは和紙で、やはり自然の基本的なイメージ・・・心をなごませるやわらかさ、ほのぼのとした暖かさ・・・はそのまま生きている。

 和紙は元来手づくりのもので、近年次第に貴重品となりつつある。和紙には和紙だけの持味や機能性があり、洋紙では代用しがたい面もいろいろあるのだが、和紙ふうの洋紙が開発されたら、なんといっても量産がきかず高くつくことから、その利用は急速に少なくなって来た。需要が減ってくると作るほうでも熱が人らないのは当然で、和紙全般の質的低下も否めない事実のようである。

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 伝統パッケージに見る紙の使いかたの巧みさは実にバラエティに富んでいる。四君子(上図左)に代表される染紙の鮮やかさとか、二人静〔上図右〕のただ薄くやわらかい紙をひねっただけで、こんなにも美しく包み上げね技術(というより、その感覚的な大胆さ、同時に繊細さにうたれる)、それから文楽人形焼(下図左)あるいは多くの紙袋に見られる「こより」としての使いかた、折り紙の手法につながる加賀らくがん(下図右)立体的な造型の見事さ、さらにまた鹿膠(しかにかわ)〔下図下]のように和紙本来の性質を余すところなく生かした例など、さすがに日本は紙の国という気がする。これらはほとんどすべて和紙ならではの使いかたで、洋紙ではとてもこうはいかない。

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 和紙を使った傑作は圧倒的に京都に多い。洗練されきった優雅な技巧の極致として、それらは素朴な生活の知恵の結晶である卵のつとや巻鰯(いわし)などと好対照をなし、「京都風」という独自のジャンルを形成している。古来わが国の文化的中心であった京都の伝統的な力というべきであろう。

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 紙による伝統パッケージの魅力で重要なポイントとなっているのは「文字」である。心憎いまで文字の扱いかたがうまい。白外良(ういろ)〔上図〕などは、まさに文字だけがデザインのすべてである。白い紙に墨の文字を書きながら、同時に文字以外の余白までデザイン的にびしりと決めてゆく感覚は、日本人の誇るべきものの一つであろう。しかも、それは名のある書家だけのものではなくて、無名の庶民に受け継がれ、ささやかな伝統パッケージに鮮やかに生きている。文字の魅力ぬきでは伝統パッケージを語り得ないといっても過言ではないだろう。

 プラスチック公害の問題がさかんにいわれる時代だが、捨てやすさという点では紙ほど便利なものはない。なんでもかんでもビニールに変えてしまうのではなく、紙のよさについて改めて考えてみてもよいのではないか。和紙は趣味的なもの、現代には通用しないものと初めから決めてかかる姿勢からは本当の進歩は生まれないような気がする。

■和紙の伝統パッケージ類

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