まとめのかたち

20■つらなり=連続

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 日本の国土を飛行機から見下すと田畑の縞模様がつらなり人家の瓦屋根が連続する。広大な畑地が必要なら,トラクターでたがやせばいい。だが傾斜が多く,耕作の機械化が思うにまかせぬ日本では人間の尺度で区切り仕切った田畑がつづく。巨大な空間が必要なら,アーチやボールトを使い大架構の屋根をかまえればよい。

 だが木材を用い,柱梁の構造法に従う日本では小さな空間をたてつらねよせ合わせて,空間をひろげてゆく。機械化がすすみ,構築法が進歩してもつらねて伸長拡大する習性はひきつがれる。そこには,規準に人間尺度が厳存するからだろう。四柱の神をまつる奈良の春日大社は四つの春日造を,互いに屋根を接して建てならべる。

 一つの大屋根でおおってしまえば雨仕舞も簡単だろうが、四つの屋根がならぶところに,四柱の神がある。桂離宮は,古書院・中書院・禁器の間・新御殿と対角線方向に建てつがれていった。

 雁行というかたちには一つの大きな屋根からうける威圧感がなく深い陰影をくりかえして,人間的な変化がたゆたう。一つの場面から次の場面へと展開してゆく絵巻物。それをわれわれは延ばしながら観賞するのだが前の場面は次の場面を呼びその場面はまたあとの情景をむかえて,連続してゆく。しかも一つ一つの場面はそれぞれ一つの絵画として完成しているのだ。

 上の句に下の句つくり足され、その歌にまた次の上の句がつづいてゆく連歌。それぞれの歌はそれぞれに独立した和歌でありながら一つの歌から次の歌へと,内容はつながりリズムはくりかえされてゆく。つらなりのかたちはそれは終わりを知らない無限の律動である。

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■つらなり=連

 同じものの一方向へのつらなりは軽快なリズムをかなでる。たて格子のつらなりはひとの侵入を防ぐスクリーンであり,わりだけをつらねた駒寄せも,人や犬を近づけない。屋根瓦も重ねつらねれば雨を防ぎ,美しい波模様をつくる.珠をつらねたソロバンは,それで加減乗除もやれる計算機.仏教徒が手にする数殊は,つないだ珠を一つ一つまさぐって念仏の数をかぞえる。そして,ほしがきにする柿の実も,するめにするいかも,つらねて干される姿には,無限の豊餞さがある。

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■(のばし=延)

 母屋から縁や茸の子が延びるのは,日本住宅の平面の発展形成である。寝殿からほ釣殿が延び,桂離宮や二条城の書院は,雁行して建てまされ,対角線方向に延びてゆく。車寄せからは短冊石の入った延壇が,茶室からは露地の飛石が、縁からは袖垣や庭が延びひろがる。たとえ塀があっても,見越しの松が視角を延長する。そして歌舞伎の舞台からは花道が,能舞台からは橋がかりが延びて,われわれの外延とのつながりを象徴する。

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■ひらけ=展

 四方へ,無限につらなり発展するかたちがひらけである。どこにでもある市松石畳パタ−ン、だが単位の大きさによって,色の塗りわけによって,それは何時も新しい 市松を四十五度回転すれば禅宗伽藍の四半じき,対角線も加わればうろこ,あるいはうろこ四半。うろこも亀甲も,紗綾(さや)形も,四方につらなりひらける紋様は多い。そして,窓の透しに用いられる四分の一円周ずつかみあった輪つなぎの横風ひときわみごとである。

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■ひろげ=放

 一本の竹も,中途からわりひろげて紙をはれば,周を送るうちわ。高砂の爺のもつ,塵を集めるくまで,お金をかき集めるという,縁起もののオトリサマの大くまで.一点でとめてひろげる扇。一点から末広がりに,放射状に延びひろがるかたちは,扇や傘のように,ひろげたりたたんだりが可能な,機械的なかたちでもある.だが,夏の夜空に打ちあげられる花火の,一点の火の玉がはじけて,八方にひろがり消える姿に,放散の美は集約される。

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■むすび=結合

■むすび=結

 進物にかけられる水引は,吉凶によって違った結びかたがされる。一回でとどめたい凶事のときは「結び切り」多きをのぞむ吉事のときは「結び留め」、「婚礼」は「結び切り」,出産は「結び留め」である。吉事の結びに「ほん結び」,「片なわ結び」,「もろなわ結び」,「あわび結び」,「あいおい結び」,「せきしょう結び」など多種あるのは,結びが装飾化したことを示している.数数の結髪,結帯をみれば,結びが化粧や衣裳と深いかかわりのあることを知るだろう。42 43

 永い人間の歴史の中で、結びはさまざまの場合に利用されてきた。ある時には、言葉の代わりになり、あるいは記憶の手段にも使われ、さらに数量を表すなど、大変重要な役割を果たしてきた。更にわが国では、結ぶという言葉はさまざまな意味を持って使われている。草の葉は露を「結ぶ」というし、花はやがてしぼんで実を「結ぶ」のである。人間は手で水を「むすぶ」(掬)というし、男女は契りを「結ぶ」という。飯を両手で握り固めたものを「むすび」と呼んでいるし、仏教では手指でさまざまな形をつくることを印を「結ぶ」という。人と人とを関係づけて親しくさせるさせることを縁を「結ぶ」という。文章や物語の終わりのことを「結び」と呼んでいる。

日本人の知恵と心「結びの文化」より額田 巌 (東洋経済新報社) 

 真結び<かた結び> square knot 
 蝶結び<双輪(もろなわ)結び> bow tie
 帯結び<かたなわ結び> single loop bow

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■つづり=綴

 一つの輪になったひもが、手から手へうつされて、さまざまなかたちをかえていく遊び・・・あやとり、その有機的な変化には、つづるというかたちに通ずるものがある。いかだやすだれも、鎧や兜の威し(おどし)のつづりかたも、いずれもつづることでかたちをなしながら、しかもそのかたちは固化していない。いかだは水の動きに、すだれは吹く風に、鎧は人体の運動に、それぞれ半ば応じながら、しかもかたちを保っている。つづりは柔らかい材料で固いものを結合する方法の結果である。20140806192112 choboku

■あみ=編み

(あみ=編)うすい片木を編み合わせたものは,網代(あじろ)と呼ばれて,笠にも天井にも垣掛こも使われる。わらを編んで,わらじやむしろがつくられ,竹を編んで,ざるや籠やびくができる。むぎわら細工や竹細工には,こうした編み目の面白さを生かしたものが多い。編みとは,曲げたり結んだりできる,比較的柔らかい一種類の材料だけでつくられる,結合のかたちである。

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■くみ=組

 (くみ=組)井筒とか井げたと呼ばれて,紋章にも家印にもなっているかたちは,四本の木材を,その端部で欠き合わせ組み合わせた姿である.これはそのまま,井戸の口まわりに用いられたものでせいろうのかたちも同じである.それは平面的にくりかえし展開されれは格子や障子の桟になって明快なパターンをつくり,立体的にくりかえされればやぐら,積み重ねられれは校倉や板倉の姿になる・組むことは,木構造の美の源泉である

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■ぬき=貫

 (ぬき=貫)木造建築で貫と呼ばれるのは,柱を横につらぬき通してゆく部材である。つらぬき通した水平材が,その端部をあらわして歌っている姿は,冠木門(かぶきもん)の冠木に象徴されよう。だが貫くというかたちが,他の結合のかたちとはなはだちがう特色は,異なった固い材料を,互いに結び合わせうるという点にある.金属やべっ甲の細い棒が,さんごやひすいの玉を貫いたかんざしのかたちが,その好例である.

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■あわせ=合

 (あわせ=合)二枚の布を表裏にぬい合わせた着物。それは,左右から傾斜してたち上がってきた小屋のあわせ,月合わせ・歌合わせなどと呼ばれる古材を合わせて合掌となり,半球状の金属を上下にになるかたちは多い。

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 ■あつめ=集積 

 ヨーロッパのモザイック壁画や点描画はこまかい陶片や描点を集めて模様を構成し,風景を描写する。だが日本の「あられ」とか「さめ」とか「かのこ」と呼ばれるものは同一のこまかい突起や点を集めてもに何を描こうともしようともしない。

 同一粒子の密集がそのままパターンを構成しそれをみるひとは,そのひとの心理の状態によってそれぞれ別のイメージをそのパターンの上に結ぶ。また,同じ単位の粒子や物体を集めてかたちをつくるとき日本では,それぞれの単位は何時も自由である。そして集める力、集める技術も,極めて単純である。それはひとつの方向性をもったもの、一つの衝戟性をもったもの、そしてそのくりかえしである。

 寄せ集めるのも一方向の力。積むのも重ねるのも盛るのも上にむかってくりかえされる技術。束ねたり締めたり握ったりするのは衝戟的な力である。

 そしていったん寄せられ積まれ締められたものは、あとはただ重力に従ってそのかたちを維持するだけである。集められた単位は、互いにかっちりと固着され接着されることが少ない。

 その単位材料が,粒子であるか,線状であるかあるいは固体であるかに従ってそれはそれぞれのかたちに集積され砂盛りや束髪や重箱のようにまた別の力でバラバラにされて,用をたし終わると、再び集められてもとのかたちを形成する.

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■むれ=群

 (むれ=群)鉄瓶や茶釜の,小さな突起の蜜集を「あられ」という。菓子にもカキモチのあられ,節句のあられがある。

 錐(きり)の先で小さな孔を無数にあけその紙型で染めた江戸小紋も,「あられ」とか「さめ」と呼ばれる。アンの表面に小豆をつけた菓子の「かのこ」,布をこまかくつまんで染めたかのこしぼり。

 かぶとの頂部に点在する突起は,「ほし」。霞と星,鮫と鹿の子,天然現象や動物の紋様が無数にひしめく群れのかたちの名称になっている.そして,星の無数の集まりも,じっとみつめてみれば星座をつくっているように,群れはまた別の大きなパターンを構成しイメージを支える。

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■ よせ=寄

 (よせ=寄)枯葉を風が吹きよせる。ひとを集めてよせ落語をきかせる寄席。こまかい木片で仕立てる寄木細工。一つの力が一つの方向にむかって集める結果が,「よせ」というかたちを生む。仏像の台座の蓮弁も,たがいちがいうろこ状にならべず,一列に集めれば吹寄せと呼ばれる。そして,千もあろうという手が一つの仏身に寄せ集まった千手観音,沢山の折鶴を集めた千羽鶴は,救いの広さ,祈りの深さをあらわす。

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■つみ=積

 (つみ=積)顔見世興行の日劇場の前には米俵や酒樽が積まれる。防火用水の上には桶が三角に積まれる。収穫を終わった田圃には稲の束が,地方地方思い思いのかたちで積み上げられる。

 城壁は何の接着材もはさまずに積まれた石で,ついに美しい反りをうたう。ただ積み上げるだけ,作用しているのは重力だけなのに,単位のかたちと積み上げかたで,違ったかたちを結果する面白さがある。

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■かさね=重

 (かさね=重)三三九度の,盃を重ねて結婚のちぎりを固める.重ねることで気持ちがきまり,安定する。三重塔・五重塔・十三重塔,高いにかかわらず安定してみえるのは,屋根を重ねているせいだろう。重ねて蒸気を透すせいろう,食物を入れ分ける重箱,これらの重ねは機能からきている。平安の女性の衣裳十二単衣は寒さをしのぐためだったろうか。だがそれはいろいろな色の着物を重かさねねて,重色目(かさねいろめ)の美学を生んだ。和歌をかいた石山切の下地の,重ねつぎの華麗さ,三月の節句の菱餅も,赤・白・緑の餅を重ねて切り,をみせている。

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■もり=盛

 (もり=盛)富士はもと活火山で,地下から噴火してあのかたちができた。ただ日本各地の庭園にはひとが土を盛って富士とみたてるものが多い。銀閣寺の向月台も,そのかたちのもとは富士にあるのだろう。盛るというかたちの発生が富士山にあるのかどうかは知らない。土を盛った古墳や塚も多い。だが土や砂や塩など,およそ器に入れねばかたちをなさぬ粒子を,わずかな粘性たよりに盛り集める姿は日本独自である。めしも盛られれば,そばにも「もり」というのがある。

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■たばね=束

 (たばね=束)京都鞍馬の火まつり,そして舐園の御輿洗には,電柱のように巨大なたいまつが火の粉をふく。松の割り木も,束ねれば大きな,たけだけしい炎をつくる。一本一本では,線のように細い頭髪も,集めればゆたかに黒いかげをたたえた束髪になる。仲秋の兎の毛,鹿の夏毛を束ねれは良筆として賞用され,竹の小枝も集まれは塵をはく掃木になり,柴の細枝。

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 ■しめ=締

 (しめ=締)ぐっと一つ,衝戟的に力を与えて締めてしまうと,つづけて力を与えないでも,締められたものと締めた力とがはりあって緊張がつづく。桶をしめるタガ,鼓をはるひも,婦人がしめる帯など,みなこの原理である。ぎゅっとひと握りしたにぎりめしやにぎりずしは,米粒を一つのかたちに集める。水のカをかりて,一漉きまた一浪きしてつくられる海苔や和紙やタタミイワシ,こうしてこまかいものを平面に集めたかたちも,日本独自のように思われる.

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■くばり=配置 

 エジプトの神殿にむかう一直線の軸には両側に同じスフィンクスの列がならんでいる。それなのに日本の仁王は日本のこま犬は一方は口を結び、他方は叫んで,阿時の相違をもってむきあっている。

 ギリシャ神話では日の神アポロ。月の神ダイアナがそれぞれ独立した物語の主人公でそれぞれ独立の神殿に祭られる。だが日本では日光と月光が、両脇侍として存在する。同じものを左右に配する相称に対して日本では対。

 主体の単一な独立に対して主があれば必ず添うものがある。対は異なったもの二つの平衡.添(そえ)は主に対する副の存在である。そして対象が三つになれば    ひふみそれは一二三や七五三七五三と呼ばれる配置の石庭の何と多いことか。

 だがこれははじめから七五三をかぞえてのことかどうか。むしろ石の有機的な配布の結果がそうなったのだろう。

対称が五つになり七つになりついに不特定多数になったとき日本人はそれを散らしてみる。散らしてうる偶然の配布。それはもはや人工の自然である。日本人はあたかも自然にそうあったかのように配置する。露地の飛び石にみられる捨石はあまりに人工的にととのいすぎた石のつらなりを視覚的に破るため配される石である。捨てるとか余すとかそうした特殊なあつかいが日本のくばりの特色を象徴しているように思われる。

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■つい=対

 (つい=対)同じものを二つならべて対称をつくるのではない。違うものを左右に配して平衡させるのが対である。それは男女雛が示すような,互いに補足的なものの平衡関係において、もっとも充足されている。祝儀に使われる鶴亀の対は,庭石でも鶴石・亀石となって,背高く細いものと,低く平たいものの釣合いを示す。京都御所紫宸殿まえの左近の桜と右近の橘,門の左右を固める阿吽の仁王,本尊を中にして両脇侍の日光と月光。そして花札にみられる梅と鴬・萩と猪・紅葉と鹿などは,植物と動物が対になって季節を表徴する。

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■くばり=配

 書道に字配という言葉がある。与え,どう字を配するかというコンポジションである。名人の碁盤への布石をみると,それが勝負のためなのに不動のコンポジションを形成している。敷地に建物を配するのも,庭に石をすえるのも同じである。竜安寺や妙心寺東海庵の石庭は,そのいい例だろう。近世の人びとは,それを七五三とか一二三と呼ぶ。そして対で鶴亀と呼ばれたものは,三つになると松竹梅である。

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■ちらし=散

 (ちらし=散)桜の花がちる風情は,日本人の心をはなれない。蓮の花弁が舞うさまは,極楽浄土を夢みる仏教徒をとらえる。何の規則もなく、ただちりもおちて偶然形成される配布、そこにはかえって味わい深いものが描かれている。色紙や短冊のきりがねのちらしは,和歌をかくための下地のデザイン。源平二組ではなく,多くのひとが一度にとるためのカルタのちらし、また,すしにもちらしと呼ぶものがある。そして僧が読経のうちにちらす散華は,もとは蓮の花弁そのものだったのだろう。

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■かこみ=囲

 かこみ=包囲 四本の竹をたて,竹から竹へ縄をまわし紙垂をさげればおはけ(白幣・八界)それは神城を表示する。紅白の幔幕(まんまく)をはりまわせば祝儀の場所黒白の幕をまわせは葬儀の場所。それからよしずをまわした休息の場所。

 空間を限定するだけで,機能はおのずと定まる。ここでは大きな場所も小さな場所もただかこむだけで自在につくられる。そしてそれはも一枚の四角い布切れ・・・風呂敷がどんなかたちのものを包みうる万能の自由に似ている。かこみが固定すれば神社の玉垣や瑞垣寺院の廻廊や築地が形成される。それは伊勢神宮のように板垣・外玉垣・内玉垣・瑞垣と幾重にもかこまれる。

 何故に日本人は執拗にも八重垣をまわすのだろう.ひとの入るのを拒んでいやがうえにも神聖を高めようとするのだろうか。囲(かこい)と呼ばれた茶室もやがては露地と外露地を区切り、垣や刈込によって,二重露地・三重露地をかまえる。それは上方が完全に開放されて天井まで屋根裏まで青空までひらけているにかかわらずかこむことで空間は限定されそれに応じた感情が生まれる。

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■つつみ=包

 (つつみ=匂)風呂敷でつつむのは,一定容量の箱やバッグにものをつめるのと,はなはだ違っている。花嫁の角隠(つのかくし)も,女性の御高祖(おこそ)頭巾も,男性のほおかぶりも,風呂敷と同様,もとは一枚の四角い布きれである。つつむものに順応するこのかたちなきかたちは,着物と洋服の仕立ての相違になってあらわれる。そして身をつつむ着物が,もとの反物のかたちを損じていないように,日本ではちまきや桜餅のように,自然のままの木の葉でつつまれた食物が多い。

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■かこみ=囲

 (かこみ=囲)泰はもと広い座敷や緑の一部をかこかこいんでたてられて,茶室ほ囲と哩は址・建築鑑む内部空間には,必て,休息ヽや就寝の場所となった・青空のもと,陸幕をはりめぐらし,よしずをまわせば,そこにも空間のたまりが感じられる.完全に閉鎖されないにかかわらず,どこからも侵入されるにかかわらず,_巨杢▼人はかこめばそこに,空間のよどみを感ずる・

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■めぐらし=廻

 (めぐらし=廻)母屋のまわりに縁をめぐらし,勾瀾をつけると、きざはしのところからしか昇殿できない。邸宅のまわりに築地をめぐらすと,門からしか入れない。 本殿のまわりに玉垣・瑞垣をめぐらし,金堂のまわりに廻廊をめぐらす場合も同じである。そして城壁をめぐらし,をめぐらされては,大手門を破るしか侵入の方法がない。めぐらすとは,周囲を閉鎖的にがっちりきめるかたちである。だからえり網に入った魚は,再び逃れえない。

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■まわし=回

 (まわし=回)ぐるりと円形にかこんだかたちは,まわしと呼ばれる。蝋燭の火をつつむ提灯は,ちぢめて点火し,のばして風を防ぐ伸縮自在の機能に応じながら,紙をとおした間接光を周囲に,平等におくる。樽や桶は,木片を集めてたがで締めるが,円形だからこそしまりあって水も漏らさない。そして,ろくろで製形されるものは,甕(かめも)徳利も,鉢も茶碗も,みなまわしのかたちである。

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