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■ゆだねのかたち
■うず=渦
かまぼこや玉子焼乃鳴戸巻は,鳴戸の渦潮から取れたものだろう。各種の渦紋は求心な形てある。だが稲妻を定着した雷紋も太鼓や瓦も,獅子の胴体をかざる獅子毛紋様も,それは躍動を思わせる遠心的な放射のかたちである。
求心的なかたちは,ひとの心を吸いよせ,放射的なかたちは,ひとの気持ちを躍動させる。
■そのまま=自然
(そのまま=自然) 日本人は,自然の山に,石に,木に神の宿りを信じた。奈良の大神(おおみわ)神社では自然の三輪山が御神体で,神をまつる本殿はない。
老樹には注連縄をまわしてその不測の生命の宿りをたたえ自然の岩組みに神の降りすまうことを予測して供物を捧げる。
磐塵(いわくら)と呼ぶものがそれである。
人工の墓碑ではなくて,
自然石を墓石にえらぶのも日本の特色
だろう。ノミで彫刻されたかたちよりは自然の石に,より永遠の姿を人工をこえた造型をみるからだろう。ノミでけずりととのえた石でなく自然の川石を使って庭をつくるのも人工の幾何学的造園が,ついに自然の風景をこえず人間の幾何学が自然の秩序に及ばないのをとってのことだろう。
自然に抗するのでなく,自然をわがものにするために日本人は自然そのものを生活のうちにもちこみ、それに芸術の息を吹きこむ。
皮付きの木材でつくられる黒木造、がまの天井,酒を入れるひょうたん、炭を入れるふくべ,遊びに貝を使った貝合わせ、音楽に竹を使った横笛や尺八。
そして小さなものは,木の中に埋めこまれ紙の中に漉きこまれる。さらに進んで,自然のものがその内側にもつ相貌をけずり出したり研ぎだしたり。木目や石目にこれほど執着をもつ民族も少ないだろう。
そしてついに,焼きこんだり、たたいたり,捺(お)したりして、ひとは自然の膚,自然の痕跡を移しとる。木の葉を焼化した木葉天目(このはてんもく)わらをかけて焼いたひだすきの技術など注目に価する。
■もの=物
自然の石ころも,それにひもをたすきがけにすれば
留石
となり,人間の通行を拒む力をもつ。自然の樹木をえらんでたてる茶室の中柱や座敷の床柱,それは室内のよりどころとなる。さらに,和紙に漉きこんだ草や花や蝶,
貝を埋めた螺鈿
,玉虫の羽を金属のすかしにはさんだ
玉虫厨子
など、
物・・・自然のオブジェ
は,
何時も人工のオブジェをこえて日本人の心をとらえ、あきることを知らない。
■はだ=膚
(はだ=盾)
膚には履歴がある。
風化によって,ますます明瞭になる木目や石目,それは自然の木や石の,生育や生成の歴史を語り,
その形相はひとの幻想を支える
。人工の土壁や鉄釜の膚も,
時間とともにさびを加えて,自然にかえろうとするかにみえる。
そしてあの単調な人工の平滑面をかくすために,ひとは
縄目をあてて縄文をつくり,
また布目や
櫛目や刷毛目や糸目
をつくる。
■おし=捺
(おし=捺)大きな魚をつりあげれば,魚拓をつくる。珍しい石碑を発見すれば拓本をとる。ものそものを拓いたり捺したりして、うつすかたちには写真にとり,絵筆が描写したものとほ別の味わいがある。そこにはものがのりうつる。日本人は母印によって自己を証明するし,まして血判とむなれは決意がこもる。
シナ人や日本人ほど,捺印に心をくぼる民族はない.
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