木で包む

■元来、日本人にとっては自然はすべて神であり、山も川も木も等しく神であったという。

 日本はまさに木の国。自然に恵まれて気候温暖、しかも適度に雨が降るからさまざまな木がよく育つ。国土全体の七割ほどが森林に被われているという。しかし、それとても無計画に伐り続けてはいつか手痛い自然のしっぺ返しをくうことになる。すでに山津波などにその兆はある。それはともかく、木のない日本人の生活は考えられないほど、私たちと木のつながらは深い。住まいがそうであるように、伝統パッケージにおいても主要素材として木の占めるウエイトは大さい。量的にも、質的にも。

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 元来、日本人にとっては自然はすべて神であり、山も川も木も等しく神であったという。そして神とは何よらも清浄そのものの存在であら、想像力豊かな日本人は、しめ縄によって区切られね空間を神なるものの浄なる領域とすることが可能であった。このような日本人にとって、白木の持つ清浄感は格別の価値あるものであったに違いない。神への捧げものは白木の台にのせられて供えられたし、事あらたまった贈りものは、いまなお木の香もすがすがしい白木の箱に入れられる。たまたまヒノキとかスギといったような香りのよい素材が豊富にあったことも理由の一つであろう。

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 木の持味を伝統パッケージは心憎いまでに生かしている。単純な箱に温いてはもちろん、ねとえば釣瓶鮓(つるべずし)のような高度にクラフト的な曲げもの(下図)においてもヒノキ本来の美しい木肌の魅力はほとんど純粋なかねちで生きている。

吉野鮓桶 20150709214646

※ 釣瓶鮨.【意味】 釣瓶鮨とは、奈良県吉野川のアユを下市町で鮨にし、桶に入れて押したもの。弥助鮨。吉野鮨。釣瓶寿司。 【釣瓶鮨の語源・由来】. 釣瓶鮨は、酢でしめたアユの腹にすし飯を詰め、桶に入れたものである。 その桶の形が、井戸水を組み上げる

 原木から材料の板を削り出すときに、金属の刃物(表面のザラツキがせっかくの艶やかな木肌の味をこわすから)でなく特別にこしらえた固い木製の木太刀を使う…といったようなこまやかな神経が、まるで絹のようになめらかな光沢を持つ独特の鮓桶を作るのである。吉野の山奥でひっそりと作られている釣瓶鮓は、桶づくりと、葛のつるで巻さ上げる締めとの、二つの工程で完成されるが、そのプロセスはさながら名工の手わざの極致を見る思いがした。手わざの見事さといえば、木を紙のように薄く削った経木(きょうぎ)(下図)もその好例だろう。あの大きい太い樹から、これほどデリケートな包装材を新たにつくら出した創造力には頭が下がる。経木という技術によって木はさらに味わいを深めたのだ。

経木

 木そのものの他に、特異な魅力を持つものとして杉皮む利用した朝倉山椒(下図下)のような容れものがある。その豪放大胆な素材の生かしぶりは鮮やかというより他にいいようがない。

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 大体が木の素地をそのまま生かしている中で、柚子甘(上図下)は焼桐という、桐の表面を焼さ焦がして、それを洗って木目を出す趣向が異彩を放っている。これとても木目という自然の面白さを一層強調した日本人ならではの技法というべきであろう。どの場合にも決して自然にさからわず、自然の巧みに忠実であれと努めながら、しかもその結果が見事に人の手の確かさを感じさせるものとなっている点、名も知れぬ人々に受け継がれ磨かれて来た美的感覚の素晴らしさは驚く他はない。


■木による伝統パッケージ例

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