藁で包む

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■わらは、瑞穂(みずみずしい稲穂のこと)の国たるわが国では一番手に入りやすい、一番手軽に使える材料だったのである。

 包むという行為の最初はごく手近な材料をそのまま利用することから始まったに違いない。そして私たちの人間生活の歴史と同じくらい稲作の歴史も古いとするなら、パッケージの素材としてのわらの利用は、人間が自ら作り出した素材としては最古のものであるかもしれない。わらは、きわめて強い繊維を持ち、しなやかで扱いやすく、この点からこわれやすいものを包むにはまったく格好の材料であった。しかもそれは瑞穂の国たるわが国では一番手に入りやすい、一番手軽に使える材料だったのである。

 そもそも単純な包装材としてわらが使い始められたころは、要するに包むものが守られたり、運びやすかったりすればそれでよく、実用的な面での包みかただけが問題であった。包まれた結果としての形や色はなんの意味も持たなかった。しかし、包む知恵と技術が年月の流れとともに次第に進み、身近にある素材を生かすにも、さまざまな経験がそこに持ち込まれてパッケージはやがて新しい一つの要素を得るに至る。それは、あくまでも実用的な必要から、特に意識することなしに引き出された美しさ・・・機能に徹した結果がそのまま見事な造型となっている美しさである。

 一番よい例は卵のつと(動画・山形県新庄市の事例)だろう。卵のつとは、農民の長い生活の中から自然発生的に生まれて来た最も優れたパッケージの見本である。卵のつとは、いわば日本の伝統パッケージの一つのシンボルともいえよう。地方によって卵の入れかたがクテだったりヨコだったり、わらの使いかた、包みかたにいろいろなバリエーションがあるけれども、どれも生み立て卵の新鮮さまで感じさせる傑作である。卵のつとは欧米の人々にはよほど強烈な印象を与えたと見えて日本の伝統パッケージが語られるときは、いつでもそれが象徴として取ら上げられるようだ。

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 生活の知恵の結晶といえるもう一つの例は巻鰤(ぶり・上図)である。これは日本海の寒ブリを十日ほど濃い塩水に漬け、それを潮風の中で陰干にした一種の干物で保存食だ。一尾の鰤を細い固く編んだなわでぐるぐる巻き上げて行く。始めと終りはきつく、中ほどはゆるく巻く。よく乾いたわらなわのすきまから空気が適当に出入らし、貴重な海の幸は半年余りもながもちすることになる。たべるときは、必要なだけなわをほどき、その身を削りとり、そのあとは、また巻いておく。まさに生活の知恵そのものといえよう。しかも、きりりと巻き上げた、その形のよさ。ほんのわずかの無駄もない機能美の好例である。

 もっとも、このごろは固くきらっと編めるわらが手に入りにくく、巻鰤のそれはわざわざ専用に作らせたものだそうだ。あれほど豊富にあって惜し気のない材料であったのに、今やわらも貴重品となら始めたのである素材としてのわらが急速に衰退に向かっているもう一つの理由は、衛生的見地から法律上の規制が行なわれているからである。

■藁の伝統パッケージ類

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