仮面の意味

■アフリカに於ける仮面の意味

 社会に於ける仮面の役割の重要さの点に於いても,その理解度の深さに於いても,その可能性の極を追求した点でも、アフリカ文化にまさるところはない。私がアフリカとここで言う場合,黒アフリカに,それも偶像崇拝を禁止するイスラム文化が南下する以前の文化に言及している。この多彩で、信じられない程豊かな造形美術の宝庫であるアフリカ文化の中でも,仮面を理解する上で,まずそれが祖先崇拝とアニミズムの世界に於ける記号の美術であること、その次にその論理的象徴の世界に入ってゆくためには、新しいコミュニケーションの言語を得る必要があることを知らなければならない。

0ドゴン族-0 7ヤウレ族 11イビビオ族-2 1ドゴン族-2 3クル族-1 2ドゴン族-1 5ゲレ族-1 5ダン族-1 6グロ族 8ボボ族 9ヨルバ族 10イビビオ族-1

 即ち祖先を形取る彫像にしろ,祭儀に着用される仮面にしろ,宇宙を形成している人間・動物・植物・鉱物等すべての自然の要素が織りなす神話的世界を造形化したものである。更に今世紀初頭アフリカ美術を理解する上で,先駆的役割を果たしたドイツの詩人で批評家のカルル・アインスタインは,アフリカの彫刻の本質を,人工的創造物でも,人間のきまぐれで作り出されたものでもなく、「それ自体」の形を呈するものであり,作品のそれぞれの部分は「それ自身のもつ意味」を表現するのであり,見る者がそれに与える意味を表現するのではないと言っている。またそれは,「全体に,個々の現実を照合する難解で,閉鎖した形」から出来ているとも言っている。この言葉は,アフリカの彫刻を見る基本である。というのは,アフリカ的世界では、自然の要素は、それぞれ内在する生命の力或いは何かエネルギーのようなものを内包し,互いに宇宙の秩序に従い関連づけられているから、この内在するエネルギーは、各々部族の文化的特質によって異って表現されるが,この力に対する信仰がアフリカの宗教の基盤である。

 それ故仮面の表現するものは,我々の審美感でとらえられるべきでない。つまりアフリカの美術が 心理とか感情を表現するのではなく,我々にとってしばしば恐しい様相を呈しているように見える仮面が,皆を笑わせる面白い仮面であることもしばしばあり,反対にテロ行為に用いられた秘密結社の仮面が,おだやかな表情をしている場合もある。すべての奥底に潜む何かエネルギーのようなものは,神秘的霊とも言いかえることが出来るが,この要は,世界を混乱させたり,平和をもたらしたり,怒ったり様々の活躍をする。この力を擬人化し,崇拝の対象である動物や人間あるいは両者の要素を混合して造形されたものが仮面である。これらの作品には,犠牲の血がかけられ,供物が捧げられ,信仰の対象物となり,自然に内在する力の絶対性を信じ,その力に助けを乞い,怒りを避け、反対に個人の利益に利用したりする。この内在する力は神出鬼没し,日常生活,祭儀を通して,個人や集団の行動に参加する。この参加を意識する程度は人により異なるが,歴史のないと言われたり,言いかえれば,縦に流れる時間を刻む方法を意識して持たないこれらの社会では,人々は反対に,永遠の連続した時間に生きていると言える。つまり非常に重要な役割を果たす口承の伝統も記号の美術・・・その中に仮面その他の全てが造形活動を含むわけであるが・・・も常に過去を現時点に持ってくる役割を果たしているからである。人々が無意識に神話の世界と深く結びつき,日常生活を営んでいるのではなかろうかと言われる理由がここにある。そしてこの現実には目に見えない力をつかもうとする努力,或いは,この力を具体的に意識下の世界から表面化し,目に見える形態にしようとする行為が,アフリカに於ける明確な意味をもつ記号の造形活動だと言える.

 仮面は,神話の始りに啓示という形で与えられた.多くの場合,世界の秩序の大混乱と関係して現われ,先祖が夢の中で最初の仮面を見たという形で説明される.仮面の作者はこのイメージに忠実に,伝統的順序を尊重し彫る.しかしながらこのようにして彫られた仮面はそれ自体信仰の対象でもなければ,魔力を持つわけでもなく,それ自体何ら価値のない木片に過ぎない,ジャン・グロードによれば,仮面は宇宙に住む生命(霊)を騙して罠にかけようと運命づけられている形に過ぎないのである(5).仮面ほ魂を入れる儀式を経過した後にのみ,超自然の力をとらえるのに有効な道具となり得る・「プリミティブ美術」の理解者として知られるアンドレ・マルローは,仮面の様式について,「彫る者は自分の知らない幻を幾何学化しているのではなく,幾何学で幻を出現させるのである.そし         10