ラムール(パン)

地元産小麦でパンづくり 産・商・学連携で共同開発=茨城・土浦

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夢、四方に広がれと挑戦
――共同開発で生まれたパン

地元産小麦を使った安心・安全なパンを広めたい-。そんな情熱を持ったパン屋さんがいます。関東初のパン用小麦「ユメシホウ」の誕生にかかわってきたフレッシュベーカリー「ラムール」。茨城・土浦民主商工会(民商)の石塚雅大さん、雅人さん親子がつくりあげてきた地元密着の店です。農家と協力し、小麦の作付けにも力を入れる石塚さん一家。その夢は四方に広がっています。

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「地産地消のパン作りを広げたい」と語る石塚雅大さん(右から3人目、雅人さん(その左)親子と家族、従業員

ベーカリー「ラムール」
「何ていうのか、かみしめるほどモチモチ感があって、香りがいい。おいしいですよ」と話すのはIさん。週に1度は「ラムール」に立ち寄る“常連”です。
JR荒川沖駅から車で10分。郊外に位置するにもかかわらず、1日平均80~100人のお客が訪れる繁盛店です。食パン、フランスパン、あんパン…。ユメシホウの素材を生かした約70種類のパンが並びます。「パンは香り、風味を楽しむもの。ユメシホウには外国産にない独特の香りがある。食感もいいし、味には自信がありますよ」。07年に雅大さんから経営を引き継いだ長男の雅人さんは自信を込めて言います。

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店内にはユメシホウ素材のパン約70種が並びます

フランス語で“甘いお菓子”を意味する「ラムール」は、雅大さんが22年間勤めた和洋菓子などで有名な新宿中村屋を辞め、第二の人生として85年に始めた店。06年には地域の人たちにアトリエとして開放しているコミュニティールーム「憩い」もオープンしました。
開業とともに民商に入会。めざしたのは「本物志向」「地産池消」「地域密着」のパン作り。雅大さんから雅人さんに引き継がれたラムールの原点です。
その石塚さん一家がラムールの看板となるユメシホウに出合ったのは05年のことでした。

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作物研究所の乙部さん

開発への共同丸3年に及ぶ
つくば市にある「独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構」の研究員から「ユメシホウを使ったパン作りに協力してほしい」と依頼されたのです。
もともとパン用小麦の99%は外国産。国内で作られているのは北海道だけで、温暖な関東では開発が困難といわれていました。「地産地消」ブームもあって同機構が品種改良を開始したのは97年。「それでもパンの材料として使えるかどうか分からなかった。だからラムールさんに依頼したんです」と、ユメシホウの開発に携わってきた同機構作物研究所の乙部千雅子上席研究員は振り返ります。
粉と水の配分、焼き加減、ミキシングのタイミング…。夜中にまで及んだラムールと研究機関との共同開発は丸3年に及びました。

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製粉前のユメシホウ小麦

「苦労しました。でも外国産ではなく地元茨城産の小麦でパンが作れる。まさに地産地消。私たちにとって夢のようなことでした」と雅大さんは言います。パンの街つくばプロジェクトも
ユメシホウに夢を託したのは石塚さん一家だけではありません。土浦市に隣接する桜川市で農業を営む飯島正義さんもその一人。研究機構から直接依頼を受け、試験栽培を開始。当初30アールだった畑も、今は1ヘクタールの面積に広がっています。

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ユメシホウ栽培農家の飯島さん

「誰もが作らないものに挑戦する。それに地元の小麦を使ってパンができる。これほど愉快なことはない。茨城県全体が一大産地になればいいですね」と笑顔で語ります。
地産地消のパン作りなどをテーマに、04年につくば市が立ち上げ、商工会、研究所、農家やパン屋さんに呼びかけて進めている「パンの街つくばプロジェクト」もユメシホウを後押し。学校給食にも試食用に提供されたほか、ユメシホウを使ってパンを作る店舗も少しずつ増えてきています。

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民商が開いた「商売交流会」でも経験を語る石塚さん

地域を元気にと挑戦を続けて
課題はユメシホウを栽培する農家が採算をとれる仕組みづくり。「自治体が産地品種銘柄に設定すれば、農家への交付金が出る。今はつくば市だけですが、それを何としても広げたい」と雅大さん。そのために自治体や議会、農協を駆け回り、農家には作付けの要請を続ける毎日です。
農・商・学の連携で生まれ、地域に元気を与えているユメシホウ。「安心安全、地産地消は地域を変えていくキーワード。日本の自給率の向上にもつながっていきますから」と強調する雅大さん。そしてこう続けました。「夢は自分を裏切らない。だから挑戦を続けます」


ベーカリーラムールの地図

▽焼きたてパンの店「ラムール」
〒300-0845
茨城県土浦市乙戸南3の12の12
TEL:0298-42-1426

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