アアルトの家具デザイン

■アアルトの家具デザイン

▶︎より良いものを毎日の生活に

 Better Things for Every day Life

 多くの建築においてアアルトは、家具や照明器異なと調度頬のデザインも手掛けている。最初期にはインテリア製品を個々にデザインしていたが、1920年代後半からアイノとともにデザインのシリーズ化を図った。1929年以降、アアルトの家具は家具職人オット・コルホネンの工場で製作されるようになる。また、1930年代初頭には、スイスのヴォーンペダルフ社フランスのスティルクレール社オランダのメッツ&カンパニー英国のフィンマー社など外国企業と契約を結び、フィンランドの製造会社から輸出されるようになった。

 国際的な販売促進を図る目的で、アアルトは、美術史家のニルス=グスタフ・ハール、美術コレクターのマル・グリクセンとともに、1935年、アルテックを立ち上げる。

 アイノは同社のアート・デレクター、のちには社長に就任し、その社名が示すとおり、アートとテクノロジーを融合させ、工業生産化された作品を日常生活へ供することを目指した。この考えを推し進めた人物の一人が、1919年にマニフェスト「より良いものを毎日の生活に」を発表したスウェーデンの美術史家でアアルトの親しい友人、グレーゴル・ポールソンだった。

 アルテックの目標はグローバルな活動だった。アアルトの家具をフィンランド国外の展示会で発表することや、ヘルシンキのギャラリーアルテックにおいて他国の美術を紹介することなどもその一環だった。これらの活動が全般的に成功を収めたことに加え、特許を取得したアアルトの家具デザイン国際的な展示会積極的に受け入れられたことで、アアルトの名声は一気に高まった。


▶︎椅子、スツールなど  Chairs,StooIs,etc.

 アルヴァ・アアルト1928年30歳、フィンランドのパイミオ市が主催した結核療養所(パイミオのサナトリウム)の建築設計競技に勝ち、建築とともに内装デザインも手掛けることになった。当初、スチールパイプを使った新しい家具をデザインすることを考えたが、スチールという素材が冷たく、療養施設に使う素材として心理的にそぐわないと判断し、代わって、曲げ木の実験を繰り返す中、「ラメラ」と呼ばれる厚みのあるバーチ材の板を重ね合わせる積層合板の加工方法を開発することにたとり着いた。この技術によって頑丈でありながらも軽量な骨格のデザインが可能になり、パイミオのサナトリウムのアームチェアをはじめとして、ラメラ曲げ木はのちにさまき主な製品に応用されることになる。

 こうして生まれた《アームチェア41パイミオ〉は宙に浮いたようなプライウッドの座面がLなやかで、クッション張りがないにもかかわらず、座り心地がよいものに仕上がった。アアルトの軽やかでオーガニックな形は、家具のデザインに新たなスタンダードを打ち立てたともいえる。

                                    (Artek)4−1 アームチェア41ハイミオ 1932年134

 三本脚の《スツール60》は、アアルトの機能主義がすべて詰まったデザインである。そのため公共の建築から文化施設、教育施設、さらに住宅といった空間の中で、椅子、テーブル、あるいはちょっとしたディスプレイ用の台としても幅広く使われている。アルヴァ・アアルトが1930年代に開発した「L−レッグ」は、無垢材の板をまるで鉄のように柔かく曲げる技術であり、座面を「L−レッグ」のみの副、限の要素で支えている。

 

 L字型の無垢材の脚は複雑な接合部分を用いることなく、円形の座面の下に直接ネジで固定されている。スツールの形状により、らせん状の塔のように積み重ねることも可能である。これまでにさまきまな仕上げ、そして布張りで商品化され、1933年の登場以来、《スツール60》およびその兄弟分の四本脚の《スツールE60》の販売数は世界中で数百万脚にも及ぶ。スツールE60》はデザインの歴史の中で最も愛されてきた名作の一つといえるだろう。(Artek)

▶︎新たなスタンダードを打ち立てたアアルト家具      

林 アンニ

 アルヴァ・アアルトの家具の特徴は、機能的なデザインに加え、フィンランド産の自然素材、テクノロジーとクラフトマンシップの融合、そして特殊な曲げ木の技術にある。

 アアルトは自分の家具の生産と販売をするためにアルテック(Artek)社を設立し、アアルト家具は現在も、開発された当時と同じフィンランドのトゥルク市郊外にある工場でアルテックによって生産され、販売されている。用いられる素材は基本的に自然界にあるもので、そのほとんどはフィンランド産バーチ(白樺)材である(下図左)。フィンランド産の木材の美しさは、複数の樹種の混交林で生育することや、北欧の土に含まれるミネラル分の影響によるもので、こうした木々の中からおよそ樹齢80年のものをアルテックのプロダクトに使用している。

 アルテックの製品は手作業による一点ものではなく、工場で製造される量産品である。とはいえ、製品の本質は完全な機械化やオートメーション化された製造工程とは違い、半機械化によって生産されている。つまり機械を用いながらも多くの工程は人の手によるクラフトマンシップを経て生まれているのである(上図右)。自然素材を使い、人の手によって作られるものを完全に均質なものにすることは不可能であり、またその必要もないといえるだろう。製品ごとのわずかな違いは、素材あるいは製造工程からくる欠点ではなく、むしろおのずと生まれたアルテック製品の個性だと捉えている。

 アアルトは曲げ木の利用を検討し始めた1920年代終わり頃家具職人のオット・コルホネンとともに革新的な技術の開発に着手した。バーチ村の「ラメラ曲げ木」を始め、無垢材をL字型に曲げた「L−レツグ」と称される脚の開発が中心となった。

 「プライウッド(芯材に薄くスライスした木材を積み重ねて接着した合板。英名は「plywood」。特に加工を施し、曲面に成形加工したものを「成形合板」という)」と呼ばれる合板を産業レベルで製造、加工し、二次元に曲げて成型する基本的な工程は19世紀末に始まった。家具のデザインを始めた頃のアアルトは、妻のアイノとともに、この二次元に成形した。プライウッドを椅子の背もたれや座面に利用したデザインを手掛けた上図左)。なかでも《アームチェア41パイミオ》は椅子の背から座面に至る見事な曲面が一枚の合板から成形されている。アアルト夫妻は座ったときの木材の弾性、および快適さを追求する上で、技術面、構造面でプライウッドを曲げることの可能性に挑んだのである

 アアルトは、先鋭的でモダンな家具を作るために、冷たくて硬いスチールの代わりに、温かみのあるしなやかな自然素材を使うことを何よりも大切に考えた。強度が必要な家具のフレーム部分のために、積層合板を使った曲げ木の実験を幾度も行った。それは数ミリの厚さにカットされた「ラメラ」と呼ばれるバーチ材の長い板を、木目が同じ方向になるように重ね合わせ、曲げる技法である。

 柔軟性と強度はスチールに相当するが、手触りも雰囲気も温かく感じられる。ラメラ曲げ木からは2種類のコンポーネントが作られた。ループ型のラメラは、《アームチェア41パイミオ》、《ティー・トローリー901》、《傘立て115》、サイドテーブルや壁付け棚に応用され、片側がオープンな形のカンチレバーや半円型のラメラはアルテックコレクションの多くのアームチェアのフレーム部分に用いられた(上図右)

 L字型の脚「L−レツグ」(図5、6)は、アアルトが1930年代初めに開発し、特許を取得した。それは、脚の材料となる無垢材の先端から曲げる部分の際まで切れ目を数ミリ間隔で入れ、その間に薄い板をはさみ、その後にカーブをつける技術である。

 このプロセスにより、厚い無垢材を容易に曲げることが可能になり、強度と耐久性を実現した。「L−レッグ」は、もともと《スツール60》(上図右)のために開発されたが、のちにスタンダード部品としてアルテックのさまざまな製品に応用されることになった。「L−レッグ」のことをアアルトは「建築の柱の妹分」と見なしていた。垂直に伸びた「L−レッグ」は水平面からの荷重を支える役割を持っておりアアルトの表現は実に的確だったといえる。四つのサイズで製造される「L−レツグ」からは、スツール、チェア、ベンチ、そしてテーブル、収納家具まで、50を超える製品が生まれることになった。この「L−レッグ」の技術をもとに「Y−レッグ」1946−47年48歳、「Ⅹ−レッグ」が1954年56歳にデザインされた。どちらも複数の「L−レツグ」を、ダボと接着剤によって接合している。

 有史以前から自然界の素材、とりわけ木材は人々の暮らしと直結する素材として欠かせなし、存在であった。自然素材はそれ自体に美しさを持ち、温かみがあり、無意識に触りたくなるような魅力がある。環境にも優しい素材であり、また年月とともに表情を変える。こうした経年変化が残した「パティナ(経年や曝露により変化を生じたもの)」と呼ばれる傷や色の変化などの痕跡は木でできた製品一つひとつの異なる歴史を語りかけるようで、それこそが家具に更なる価値を与えているといえる。アアルトにとってデザインとは表面的なものではなく、木工技術の開発から始まり、同じ部品を多目的に使用できる合理的なシステムのことであった。そのためアアルトによる家具は、無駄がない、流行に左右されない、時代を超えて生き残る力を持っているタイムレスな作品となったのであろう。

 

Artek-Stool60-Shadow-Wearefellows-Maximilian-Bartsch_Portrait

アルテック  Art & Technology since 1935

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ミラノ デザインウィーク 2019

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 2019年4月、ミラノデザインウィークにて、「FIN/JPN フレンドシップ コレクション」を発表します。

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 阿波藍の産地として知られる徳島県上板町を拠点とする藍師・染師のBUAISOUにより、古くから伝わる伝統的な藍染めを受け継ぎ、未来へと繋いでいきます

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オルガテック 2018

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 2018年のオルガテックで、アルテックは現代の働く環境における「普遍的な木製の椅子」に焦点をあて、TAFによる新製品<アトリエ チェア>、イルマリ・タピオヴァーラの<アスラック チェア>、アルヴァ・アアルトデザインの<611 チェア>を発表しました。

スウェーデン国立美術館と<アトリエ チェア>

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アルテックの象徴的な製品を見る

Stool 60 clear lacquer_WEB

スツール 60    アルヴァ・アアルト  1933

Wall Light A330S_Golden Bell_Brass off_F_web

Wall Light A330S “Golden Bell”  アルヴァ・アアルト 1937

Rival Chair KG001 red lacquer caramel leather upholstery_WEB

ライバル チェア  コンスタンチン・グルチッチ 2014

Domus Chair black leather upholstery_WEB

ドムス チェア

イルマリ・タピオヴァーラ 1946

Tea Trolley 901 black laquered dark version by Hella Jongerius_WEB

901 ティートロリー  アルヴァ・アアルト  1936

Armchair 41 “Paimio“ black lacquer

41 アームチェア パイミオ  アルヴァ・アアルト 1932