子供の嘘とは

■助けてほしいだけなのに

 子どものウソはむやみに叱ってはダメ「ウソをつくのはダメ」と子どもに諭すのは、しつけとして当然だが、頭ごなしに叱るのはNGだ子どものウソには、心のSOSのサインが隠れている。

 「日大の監督やコーチは、ウソをつかないでほしい」「自分が選手に命令したって、正直に言ってほしい」 東京都内の小学校で5年生の担任を務める男性教諭(40)が、国語の授業で児童に自分で選んだ新聞やネット記事を発表させたときのこと。多くの子どもが日本大学アメリカンフットボール部で起きた悪質タックル問題を挙げた。

 「その日の発表では (悪質タックル問題が)、一番多かった。あのタックルはひどい、怖いといった子どもらしい言葉もあったが、大半は大学側のウソを指摘していた。子どもは大人のウソに敏感だし、大人が思っている以上に本質をついてくる」

 子ども自身もウソをつく。だからこそ、ウソに対して多感になるのかもしれない。

▶心の発達の証し

 「ウソはよくないことだと、学校では教えている。その一方で、子どもはウソをつくものだという認識で接しているのも確か。特に、日常的に頭ごなしに叱られている子どもがウソをつきやすいと感じている。失敗を親に知られないためにウソをついているように見える」(男性教諭)

 学校や塾、家庭はもちろん、野球やサッカーなどスポーツでも、失敗が許されない。そのため、自分のミスを隠そうとする。もしくはそのことに正面から向き合えなくて、ウソをつく。

 都内に住む会社員の女性(43)は、小学5年生になる長女の「ウソつきぐせ」が気になる。テストの点が悪いと「頭が痛かったから」と弁解する。水をこぼせば6歳下の弟のせいにする。高価なゲーム機がなくなったときは、一緒に進んでいた友達に向かって「○○ちゃんに貸していた」と罪をなすりつけようとした。その子の悲しそうな表情を見て、すぐに娘本人がなくしたと気づき「また、ウソを言うー・どうしてウソばかりつくの!」と怒鳴ってしまった。

 「ウソをつくのは泥棒の始まりだと小さいときから厳しく言ってきたのに。怒るほうがいけないのでしょうか。悪いことは悪いと教えなきゃ、甘いとしつけにならないと思っていました」

 そう言って途方に暮れる女性によると、長女が何か失敗すると父親からげんこつが飛んでくることもあるという。男性教諭が話したように、失敗を恐れ親に知られないよう必死にウソをついているのかもしれない。

 『子どものウソ、大人の皮肉」の著書がある東京学芸大学国常数育センター教授の松井智子きんは「子どものウソは、心の発達と成長の証しであり、何らかのSOSであるパターンはとて多い」と話す(上図参照)。

 たとえば、母親の財布からお金を盗む行動は「愛情を盗むのとと同じ」と言われる。「盗ったでしょう?」と問い詰められても「僕じゃない」とウソをつく。

 都内在住の会社員の女性(45)は、今は高校生になった長男が小学生のころ、姉の貯金箱からお金を盗んだことを思い出す。姉の中学受験を前に、自分も夫も毎日必死だつた。

ウソの陰ある悩み

 「お姉ちゃんのお金、知らない?」と聞いたら、「知らない」と答える目が泳いでいる。女性は「すぐに、ああ、盗っちゃつたんだなと思ったけれど、責めたりはしなかった。それからは私のほうが残業を減らして少し帰宅時間を早めたり、なるべく学校での話を聞くようにした」という。

 このように、ウソの陰に孤独感や嫉妬などなんらかの悩みのようなものが隠されている、上図のⒶタイプと似ているのが、の「心配させたくない」タイプ。こちらはウソの背後に、いじめや学業の遅れ、他者からのハラスメントが存在する場合もある。親の振り返りや、子育ての修正だけでは解決できない深刻なケースだといえる。

 松井さんによると、「親や先生を心配させたくなくてウソをつく。自尊心が強い、もしくは心のやさしい子に多い」そうだ。

 首都圏に住むパート主婦(55)は、長男が中学1年生の夏休み明けから不登校気味になった。よく見ていると、部活動の練習がある日を選んで休んだり、体調不良を理由に早退してくる。「どうしたの? 学枚で何かあったの?」と尋ねても、「何もないよ」と首を振る。「サッカー部が楽しくないんじゃないの?」と言うと「楽しいよ」。

 思春期の男子中学生は、親から働きかけても言葉が少なくなかなか会話が成立しない。そのうち、退部したいと親に訴えている子がいると知った。部内で、上級生のいじめがあったのだ。練習中に暴言を吐かれた一年生もいた。すぐに保護者同士で連携し、顧問の教員に相談。最終的に校長も入り、いじめ問題を解決できた。

 問題が収束した夜、保護者会から戻って長男に「もっと早く相談してくれればよかったのに」と言ったら、「だつて、心配するじゃん」と言われた。子どもは心でウソをつくのだ。

 Ⓐ、Ⓑタイプのように、ウソが心のシグナルをともしていそうなとき、私たち大人はどう対応すればよいのだろう。一番の注意点として、松井さんは「表層に現れたこと(ウソの言葉や話)だけに心を奪われず、表情や行動など子どもの状況全体を見ること」と、「安心させること」の2点を挙げる。

責めずに理由探す

 ウソをついたことを責めるのではなく、理由を探すことに心を砕くことが重要だ。そして、ウソをつく子は多くの場合不安感が強い。よって、「大丈夫だよ。ウソなんてつかなくていいよ」と肩を抱いたり、背中をなでたりしてほしい。

 逆に、やってはいけないことは、ウソをついたことをきつく咎(とが)めたり、叱ったりすること。一例として、塾をサボっているのに「行ってきた」とウソをつくのは、そこでの学習についていけないとか、講師と肌が合わない、もしくはそもそも塾に行きたくて行っているわけではない、ということもある。

 「塾にちゃんと行きなさい、お金がもったいないと思わないの?と注意したいところだが、子どもが行き詰まったり、納得して塾通いをしていなかったりなどマイナス要因がある場合は、説得しようとしても耳には人らない。正論をぶつけて諭すのは、マイナス部分がなくなり子どもの心が元気になつてからにしましょう」(松井さん)

 特別なケースはだろう。DVや児童虐待等の問題が横たわる家庭環境でサバイブしている子どもは、ウソをつくことで自分を守る。親の虐待を隠すのは、明るみに出て親からひきはがされることを恐れているからだ

▶心情を掘り下げていく

 「つらい家庭環境で生きている子は、貧困や虐待を直視せずにウソの世界に身を置くことで自分の精神を保っている部分がある。自分は子どもで、子どもは無力だということをわかっている。生き抜くために必要なウソです」と於井さんは説明する。

 最後のⒹタイプは、単にやりたくないことを回避している、つまり「表裏のないウソ」である。

 前出の男性教諭は、そんな子どもを質問攻めにする。「なんでウソついたの?」「どんな気持ちだつた?」「ウソがばれたらどうしようって心配にならなかった?」「宿題を心配しながら遊んでいても心から楽しめなくない?」

 そんなふうに、子どもに対し「ウソつきの心情」を掘り下げていく。「そうだよね。宿題を先にやっちゃったほうが、心おきなく遊べるよね」で終わる。

 子どものウソは、子どもの心を映す鏡心に寄り添うことを意識したい

ライター・鳥沢優子