来訪神・ユネスコの無形文化遺産登録見通し

■10地域の神々、無形文化遺産へ

 文化庁は10/24日、国連教育科学文化機関(ユネスコ)の補助機関が、「男鹿のナマハゲ」(秋田)など8県10件の伝統行事で構成する「来訪神 仮面・仮装の神々」を無形文化遺産に登録するよう勧告したと発表した。11月26日から12月1日までインド洋のモーリシャスで開かれるユネスコ政府間委員会で、勧告通り登録が決まる見通しだ。

 来訪神は、正月などに仮面をかぶったり仮装したりした人が「神」として家々を訪れ、幸福をもたらすとされる行事10件はいずれも国の重要無形民俗文化財に指定されている。

「泣く子はいねがー」と叫びながら家々を回る「男鹿のナマハゲ」(秋田県男鹿市)など、全国10地域の年中行事が「来訪神」としてユネスコの無形文化遺産に登録される見通しとなった。各地で行事を守ってきた関係者からは喜びの声が上がった。

 ナマハゲは神の化身や使いとされ、大みそかに山から下りて集落を回り、厄を払って新年の福をもたらす。今も80以上の地区で継承されている

 代表的な存在の真山地区の「真山なまはげ伝承会」の菅原昇会長(75)は「これを機に海外からも注目してもらえたら」と歓迎する。

 ナマハゲは、かつて独身の若い男性が務めた。だが高齢化が進み、今は50代で初めて務める人もいる。家に入ろうとしても「床が汚れる」「もてなしの料理を作る暇がない」などと断る風潮が広がる。真山神社の武内信彦宮司(67)によると、地区でもナマハゲを招き入れる家は2割ほど。「誉れに思う半面、責任は重い。本来のナマハゲの意義をさらに広めていきたい」と話す。

 能登半島の石川県輪島市と能登町に伝わる「アマメハギ」は、怠け心を戒める神事だ。アマメハギとは、能登地方の方言。囲炉裏に長くあたりすぎると足にできると言われる「火だこ」を指す「アマメ」をはぎ取るとの意味とされる。

 能登町秋吉(あきよし)地区では毎年節分の夜、手製の鬼の面をかぶった小中学生らが「アマメー」と声を上げ、模造の包丁で手おけをたたくなどして幼児を怖がらせる。保存会の天野登会長(83)は「素晴らしい文化が能登にもあることを知ってもらうきっかけになれば」と喜ぶ。

 「甑島(こしきじま)のトシドン」は鹿児島県の離島、下甑島に伝わる。大みそかの夜、長い鼻に大きな口の神に扮した男たちが子供のいる家々を回り、「悪い子」を戒める。2009年、一足早く単独で無形文化遺産に登録された。保存会の苑川(そのかわ)託美会長(66)は「ようやくみんなそろって、うれしい。子がいる限り、続けたい」。

 沖縄県宮古島のパーントゥ島尻地区では、泥だらけのつる草を身にまとった神々が、子供たちにくさい泥をなすりつける習わしで、今月催された。「小さい島が有名になる。うれしい」と宮良保・自治会長(59)。今後の祭りを支えていく上地俊也・青年会長(28)も「うれしい半面、(引き継いでいくことに)ちょっとプレッシャーになりそう」。

(野城千穂、井潟克弘、加藤美帆)