アフリカン・マスク

■アフリカン・マスクの表現

 私たちは、自分以外の様々を存在と関わりながら日々を重ねている。そこでは他人や身の回りの環境、社会といった現実世界のものだけでなく、神々や精霊など超越的な存在との関わりもが意識されてきた。では、私たちが生きる世界のかなたに存在するものの面影や姿は、いかに表現されてきたのだろうか。それを考えるひとつの手立てとして、アフリカン・マスクに着目する。

 アフリカにおいて仮面が作られるのは、ギニア、マリからコンゴをへてモザンビークにいたる、赤道アフリカと呼ばれる地帯の農耕社会に限られる。仮面は、これらの地域のアニミズム信仰と深く結びついており、太陽や大地をどの自然や祖先の霊、動物の精霊などの存在を表したものとされる。

 その造形表現は、一見奇抜にも見える。まずそれは、仮面が「顕著な特徴以外はもともと識別しえない」状況下、つまり「かがり火だけの闇の中や、日差しの下でも踊り手の激しい動きに砂がもうもうと巻き上がるような」場面で使用されるという事情が関係している。しかしそれを踏まえてもなお、アフリカン・マスクは見る者に畏れや恐怖を抱かせる機能を有しているように思われる。それは、人と動物の額の特徴を融合したかたちや様式化された造形などによって、人ならざる存在であると強く印象づけられるためだと言えよう。そしてその表現は、人の顔に着けるマスクのもとに展開されている。仮面とは言わば、自身の顔を隠し、他の存在であることを表現する装置である。つまりそれを着けることで、”わたし”でありながら精霊となるのである。

 他でもない、顔に装着する仮面が、精霊など山かなたの存在と人間との接点になる。アフリカン・マスクは、それが人ではない超越的な存在であることを造形として示しつつ、人間の顔や身体と深く関与するのである。

▶︎かなたの姿

 神々や精霊など、いわば私たちが生きる世界のかなたに存在するものの顔貌や姿は、いかに表現されてきたのか。それを考えるひとつの手立てとして、アフリカン・マスク展が開催された。

 アフリカにおいて仮面が作られるのは、ギニア、マリからコンゴをへてモザンビークにいたる地域の農耕社会に限らる。こうした仮面は、儀礼に伴う舞踏で用いる道具として作られたもので、直接目には見えない祖霊や精霊が表現されている。人と動物の顔を組み合わせた容貌や、様式化された造形を持つ。それらは、一見すると奇想天外な顔かたちにも見える。しかしそれは、仮面に強い力を持たせるための表現であり、見る者に畏れや恐怖を抱かせ、人間とは異なる存在であることを示しているのです。

■コートジボアール「バウレ族の仮面・ゴリ・プレプレ」彩色・木

 鮮やかに彩色された、角のある小ぶりな仮面。円盤状の顔に、突出した目や歯をむき出しにした小さな口がついており、どこか可愛らしくも見える。バウレ族では、村が災厄に見舞われた際や重要人物の葬儀、あるいは余興の場面におい”ゴリ”という踊りを行うが、この面はその冒頭に現れて、他の仮面の登場を告げる役割を果たす。その形態は、水牛を模したとも太陽を象ったものとも言われ、生命力あふれる表現が追究されている。

▶︎他のコートジボアール・ダン族の仮面群

  

■シエラレオネ メンデ族のヘルメット型仮面、木・貝 

 髪を複掛こ結い上げ、穏やかな表情を浮かべる女性の仮面。メンデ族の人々にとって、綺麗に結い上げられた女性の髪や、輪の入った太い首、小さくまとまった目鼻立ちなどは美しさを象徴するものであり、この面にはその実意識が反映されている。女性のみで構成される結社−サンデでは、思春期になった少女達を森に集め、成人の儀式や教育を行う。本作は、自分たちの結社を守る精霊が具現化した存在として信仰を集めている。

▶︎その他のメンデ族の仮面群

 

■ガボン(プヌ族またはルンボ族の仮面。”オキュイ”) 白陶土、木

 髪を結い、笑みをたたえる女性の面。これは理想的な美しさを持つ女性の顔として造形されており、葬儀の際に登場し、死者の魂がこの世に戻ってきたことを具現化する役割を果たす。他のアフリカン・マスクと比べて人間らしい顔つきをしているが、仮面のかぶり手が2メートル近い高さの竹馬に乗って登場することで、人とは異なる存在であることが示されるのである。

▶︎その他のガボンの仮面群

■コートジボワール・リベリア”ダン族の仮面” 木、貝

 コートジボワールに住むダン族は、豊かな音楽と踊りの文化を持っており、冠婚葬祭、戦争、季節の儀式、スポーツイベントなど、あらゆるイベントで音楽と踊りがセットになっています。仮面も重要な役割を果たしており、踊り子が仮面をかぶって踊る他、戦争やスポーツでも仮面を被ることで精霊の力を得られて強くなると信じられています。この仮面は女性用で、ダン族の最高の美である「唇がポテッと厚ぼったい」女性を表現しています。

▶︎他のダン族の仮面群

 

■セヌフォ族の精霊仮面祭り・コートジボアールの仮面

動物への畏敬感情を示す一例として、以前調査したセヌフォ族の仮面がある。この仮面では7種類の動物たちが合成されている。彼らは「人間にはない/人間の及ばない」各動物の能力を連合させることで神的実在を表現している。

セヌフォ族の中のナフィク族の葬送の儀式に登場する最も大きい精霊は、森の中からものすごいスピードで村へとやってくる。牛、イボイノシシ、ワニ、アンティロープの毛皮でつくられた猛牛の姿をした精霊は、ナフィク族の知力と肉体の象徴をあらわしている。恐ろしいうなり声をあげる精霊は高さ1.8m近く、長さが4.5mにもなり、椰子の葉で覆われた村の守護人は機敏に村の中を逃げ回る。時には精霊をあざけるように寝たふりをして、精霊が飛びかかる寸前に逃げ出す。

セヌフォ族は、死者の霊は死の世界と結びついていて、その霊は死者の村に居残り、村や家族たちに災いをもたらす、と信じている。村人たちは、悪霊があの世に送られ、そこで祖先の霊となり村人たちを守ってくれるために、葬送の儀式をおこなう。頭の前と後ろに顔をもったこの霊は、墓場の上をはね回る。ワニの口、イボイノシシの牙を持ちガチョウの羽とヤマアラシの毛で飾られた精霊は、ゆっくりとして優雅な動きで踊り、村に居残る悪霊たちを追い払う。

▶︎その他のセヌフォ族の仮面群

■コンゴ(旧ザイール)「ソンゲ族の仮面・キフェべ」白陶土・彩色・木

 大きく突出した口や鶏冠(とさか)のような突起など、一際強烈な造形要素を持つ。その奇怪で見慣れぬ顔かたちは、一見恐ろしい印象を与えることだろう。この仮面は、ソンゲ族の秘密結社“キフェべ”において、主に少年の割礼や成人儀礼の際に登場する。その縞模様は、ソンゲ族(バソンゲ族)では好戦的な動物と考えられているシマウマヤアンテロープ(玲羊)に由来し、荒々しい踊りで攻撃的な動物の特徴を表現する。

▶︎その他のバソンゲ族の仮面群

 

■マノ族の仮面