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弔いのあり方
■弔いのあり方:1 お葬式
自分自身の葬儀で、もっとも優先してほしいことは何ですか?/夫や妻、親の葬儀で、もっとも優先すること(優先したこと)は何ですか?/葬儀に関してもっとも気になっていることは何ですか?
団塊の世代が高齢化し、“多死社会”が本格化します。大切な家族が亡くなったら、どこに相談すればいいのか。葬儀の費用はいくらかかるのか。自分が眠る墓はどうするのか――。お葬式やお墓への不安が尽きません。いずれ誰にもやってくる弔いのあり方について、みなさんとともに考えます。
■もっと多様な形でいい
家族を送った体験談やお葬式についての意見が、アンケートに寄せられています。
●「先週夫の父を、3年前に実父を送りました。どちらも慌ただしくわからないまま葬儀社の方のアドバイスで葬儀をしました。事前に考えておくことも必要だったかもしれませんが、カタログを見ながらあっという間に用意ができるのはありがたい半面、何か買い物をしているような不思議な気持ちも少ししました。それでも、残った人が心置きなく送ったと思えることが大切だと思うのでこの形も悪くないかなと思ったりもします」(愛知県・50代女性)
●「結婚式のように、葬式も時代に応じてもっと形式が多様になってもいいのかなと思う。故人やその家族の希望に応じたオーダーメイド形式の葬式が今後は増えてくるのではないか」(愛媛県・20代男性)
●「一昨年父を亡くして実感したが、葬儀やその後の法要などは、故人のためだけでなく残された者が少しずつ死を受け入れてその後を生きていくために必要な行事でもあった。母から葬儀はいらないと言われているが、なにもしないことは考えられない」(大阪府・30代女性)
●「昨年、母の葬式を出しました。危篤状態の時から葬儀屋さんと打ち合わせ。自分が考えていた『一日家族葬無宗教 お香典ご辞退』で済ますことができました。四十九日にお寺で戒名をいただき納骨しましたが、最後まで『相場』が謎。思い切ってご住職にうかがったら、想定の3分の1。聞いて良かったと思っています」(千葉県・50代女性)
●「本人が望まない限りは、葬儀は必要ないと思います。お坊さんの収入源であるのは理解できますが、信仰心がない者にとっては無駄なお金でしかありません」(海外・40代男性)
●「戒名料は結構高い。個人的に疑問に思うことは親から付けてもらっている名前があるのに、なぜ天国に行くのに戒名料が必要なのか。時代が変わってきているのに、おかしい」(宮城県・60代女性)
●「長男の嫁です。義両親の際、看病があり、葬儀を終えるにはかなりな体力を要しました。仮通夜のようなこともしましたのでご近所の方々もいらっしゃり、通夜、本葬では義兄弟の連れ合いの親戚や勤める会社の方々も多数来られました。帰宅直後、義兄弟から『誰からいくら香典をもらったか?』と電話があった時には虚無感だけでした。ゆっくりと義親を悼むことが出来たのはかなり後です」(大阪府・50代女性)
●「葬式は祭りなのでにぎやかに」(東京都・50代男性)
●「確実に孤独死になると、覚悟しています。いくばくかの現金を封筒に入れて、目につくところに置いておくのが迷惑をかけない方法と思っています」(広島県・60代男性)
●「家族葬でと近親者だけで行ったつもりだったが、後から他界を知った人が訪れ葬儀の終わりがダラダラと続いた感じがした。ある程度の範囲の人々に知らせれば告別式一度で済んだのかもしれない。わざわざ訪ねて下さった方に来なくてもよかったとも言えないし、これが家族葬の欠点かと感じた」(宮城県・60代男性)
■不透明なお布施、不信感
埼玉県深谷市の会社員、松本江美子さん(53)からメールが届きました。寺との付き合いを断ち、家族だけのこぢんまりした葬儀を営んだと言います。詳しく聞いてみました。
きっかけは5年前、84歳で亡くなった父の葬儀でした。母は認知症で施設に入っていて、寺との付き合いは父任せでした。相談相手もいないなかで、葬儀社から祭壇や棺のランクなどを次々に尋ねられました。
戒名料を含めたお布施はいくらか僧侶に聞くと「15万円から」と言われました。「から」が気になりましたが、15万円を払いました。1カ月後、友人の父が亡くなり、同じ僧侶でした。友人へはお布施として「35万円から」と求めたそうです。「お布施が不透明で、不信感が残りました」。四十九日法要は僧侶を呼ばず、家族だけで納骨しました。
昨年12月、90歳の母が亡くなりました。インターネットで調べ、定額の葬儀を提供する業者に頼みました。僧侶へのお布施も含めて20万円。紹介された僧侶とは火葬場で初めて会い、お経をあげてもらい、3万円を渡しました。母に戒名はなく、四十九日法要もしません。
墓は父が生前に民間霊園にたてましたが、「子どもたちに墓守をさせたくない」とその墓を閉じ、永代供養墓に父母の遺骨を納めます。自分が亡くなれば、海に散骨してもらいたい。子どもたちにも伝えました。
家に仏壇はありません。部屋に両親の写真を飾って線香を供え、話しかけています。松本さんは「遠くにあって、なかなか行けないお墓より、身近にある写真や大切なもののほうが追慕できると思います」と話しています。(岡田匠)
■葬儀の平均費用、140万~150万円
経済産業省の特定サービス産業動態統計調査から算出した2000年以降の葬儀1件当たりの平均費用は、140万7千~152万1千円の範囲で推移しています。特定サービス産業実態調査によると、14年の葬儀業者の年間売上高は推計1兆3700億円にのぼります。
15年に全日本冠婚葬祭互助協会がインターネットアンケートで「お布施を除いたお葬式の費用」を尋ねたところ、1990年までに営んだ葬儀では「51万~100万円」が最多でしたが、それ以降は「101万~150万円」が最多に。葬儀の参列者数はどの時期も「51~100人」が3割以上を占めて最も多いものの、「11年以降」で「30人以下」が急増し、2割を超えています。
また、16年度に互助協会が行った香典に関するアンケートによると、香典の額は故人が親類以外の場合は5千円と回答した人が最多で、「親」が10万円、「兄弟姉妹」が3万円、その他の親類が1万円でした。
葬儀をめぐっては、09年に流通大手のイオンが明朗会計や格安料金を売りに葬儀業界に参入。近親者らで小規模に営む「家族葬」も人気が高まっています。「終活」は、12年の「ユーキャン新語・流行語大賞」でトップ10入りしました。
僧侶との関係も変化しています。「お気持ち」とされていたお布施や戒名料を明示する寺院が現れ、16年には通販サイトのアマゾンを通じて申し込める僧侶の手配サービス「お坊さん便」に仏教界が反発、中止を要請しましたが、サービスはいまも継続しています。(田中聡子)
■個人化の時代、規範しばられずに
葬送ジャーナリスト・碑文谷創さん
少なくとも江戸時代から太平洋戦争後の復興期まで、お葬式は地域共同体を中心に、慣習に従って行われていました。檀家(だんか)制度の影響を受けた仏式で、場所は自宅かお寺。それが大都市周辺へと人口が集中した1960年ごろから、都市部の住民が葬祭業者へ「外注」して任せる動きが出てきました。地域共同体の弱化や寺離れなどもあり、80年代までに全国へ広がります。葬儀の会葬者数が増えてバブル期には平均300人に。うち7割が死者本人を直接知らず、遺族は弔いよりも会葬者に失礼がないよう気づかいました。
90年代に入ると葬儀会館が各地にできて、自宅や寺での葬式が消えていきます。地域も親戚も手を引き、遺族は孤立し、葬祭業者を頼らざるを得なくなる。特に阪神大震災以降、葬式は「個人化」に大きくかじを切りました。
そのころまで9割を占めた仏式が最近は7~8割と減っています。寺と普段から関係があるのは地方でも5割程度。僧侶も派遣でいい、となる。小規模な「家族葬」が全体の3分の2を占めますが、最も簡素化志向が強いのは60、70代以上。この世代は会葬者への気づかいで大変だった親の葬式での苦い経験を悔い、子に迷惑をかけたくないという人が多いんです。ただし家族葬には明確な定義がなく、喪主である子どもが死者のきょうだいや友人の参列を拒んだりするといった混乱も起きています。
死は年齢を選びません。死にゆく本人はもちろん、家族にとっても死は常に事件であって、死別者の抱えるグリーフ(悲嘆)は依然、大きな問題です。しかし家族は大きく変容し、バラバラになった。ひとり死も増え、悲しみが共有できなくなっています。お葬式が規範にがんじがらめの時代は終わりました。今こそ、生死の現実に向き合う時です。人間関係の原点に立ち返り、自分、家族、そして親しい者たちの問題としてとらえ、選択してほしいと思います。(聞き手・高橋美佐子)
■弔いのあり方:2 誰のために
お葬式はそもそも誰のために執り行うのでしょうか。故人のためか、遺族のためか、その両方なのか。送る側か、送られる側か、その立場によっても見方は違ってきます。望ましいお葬式のスタイルや費用、僧侶ら宗教者が関わる意味についても考え方はさまざまです。当事者や専門家らにさらに話を聞きました。
■寺を入れず、自分らしく
家族のこと、自分のこと。お葬式をめぐって様々な声がアンケートに寄せられました。
●「最近、死は誰のものかと考えています。10年前に母を、5年前に父を亡くしました。身内だけのこぢんまりとした葬儀を本人は望んでいたようですが、葬儀は親戚、友人を含め、残された者のためと思い、慣習に沿った盛大な葬儀をあげました。形式的でしたが、結果的に生前あった様々な絆を確かめられ、一つの区切りがついたことで、家族としては気持ちが楽になりました。私自身も家族葬でよいと思いますが、最後は葬式をあげる家族に委ねたいと思います」(神奈川県・30代男性)
●「父(享年82歳)の葬儀は、母の希望で広い会場を借りました。でも何十年も前に会社を引退していて、大勢来るわけもなく、ガラガラでした。長生きすると、会社の付き合いも疎遠になってしまいます。ご近所の方もほとんど年金生活者で、香典は大きな出費なので、母が無理に出席をお願いしていたようで気の毒でした。自分の時は、家族だけで、告別式だけにしようと考えています」(千葉県・50代女性)
●「5年前に夫が亡くなりました。当時、誰のかわからないようなお墓がいくつもあったのを処分して、場所も移して新しいものを建てました。私はその墓には入りたくないのですが、なんせ田舎なのでそうもいきません。私の娘たちは墓じまいしてと言っています。私は海に散骨希望です。跡形もなく消えてしまいたい。子どもには、葬式やその後の法要で迷惑かけたくないです」(福井県・50代女性)
●「私は一般の家庭から得度し僧侶になりました。インターネットなどでやってくるお坊さんの中には僧侶の修行もしていない、資格も持っていない方が多いと思います。これは私たち僧侶にも責任があります。私たち僧侶にも答える機会をください」(神奈川県・50代男性)
●「寺族の一員として、法外な葬儀のお礼や戒名料の情報を見るたび、葬儀は無用の意見も仕方なく思います。当寺では、すべてお志をいただくのですが、それが宗教のありかただと信じています。墓も寺内にはなく、私たちの先祖も本山の永代供養共同墓地に納骨しています。檀家(だんか)さんには自由にしていただいていますが、お墓が必要なくてありがたいといわれます」(京都府・70代女性)
●「寺を介入させずに、私の思いを、1人ずつ文章につづっておくので、司会者に、ゆっくり読み上げて欲しい。祭壇は、簡素にし、花は私の希望する花で、飾って欲しい。また、柩(ひつぎ)の上には、私の成人式で用意した着物で、覆って欲しい!」(福岡県・60代女性)
●「皆が世間体を気にしないようになれば変わる。無宗教の人が葬儀の時だけ坊さんを呼ぶのはおかしい。死んだ人にお金を使うより生きている人に使う方が合理的」(京都府・60代女性)
●「ゼニカネかけなくていいから、笑って送ってほしい。とはいえど、現実的じゃないかも。せめて、なんでもいいから当人が生きた証しが末永く残るようにしといてほしいね。墓じゃなくとも」(埼玉県・60代男性)
■家族葬、遺言通りなのに…
大阪府岸和田市の主婦、小島栄子さん(57)は、家族だけのこぢんまりした葬儀に疑問も感じたそうです。2009年、和歌山県に住んでいた夫の父が亡くなり、セレモニーホールでの葬儀には親戚や近所の人ら約150人が参列しましたが、母は「私の葬儀は自宅で、家族だけで見送ってほしい」と言いました。
10カ月後に母が亡くなり、希望通り、家族や近親者約10人が家に集まり母を送りました。読経の最中、何本も電話がかかってきました。「なんで教えてくれなかったの」
出棺は近所の人たちが見送ってくれましたが、「この前の(父の)葬式と比べると質素でかわいそう」「えらい扱いだ。こんな目に遭わせて」という声が聞こえてきました。母の遺言であることを告げても納得してもらえません。
翌日から、近所や母の友人らの家を夫と一緒に車で回ると、「友だちだってお別れを言いたい。それを遮るのはおかしい」と言われました。
小島さんは「父の時のほうがすっきりと心の整理ができ、家族葬の大変さを実感しました」。一方、母の思い通りにしてあげられた充実感や、家族だけでしのぶことができた満足感もあります。「私の時には、家族葬がもっと一般的になっているでしょう。家族だけで、ほんわかした葬儀にしてほしい」(岡田匠)
■お布施や僧侶の意味、伝える努力
全日本仏教会理事の戸松義晴さん
本来、お布施は宗教行為にあたります。喜捨(きしゃ)とも言い、「ありがたかった。喜んで施します」という思いが込められ、出す人に決定権があります。それなのに、出す人の家庭環境や経済的事情も考慮せずに請求する寺もあり、お経や戒名への対価のようになってしまいました。
もともと葬儀は地域で担っていました。今はインターネットで全国統一の価格設定をする葬儀社もあります。地域や寺との関係がなくなった人が増えたことが背景にあります。
檀家(だんか)制度は、その土地に住んでいることが前提で、離れる人が増えれば揺らぎます。その人たちをケアするシステムを寺が作ってこなかったわけです。檀家が亡くなれば都市部に出向いてお経をあげ、住まいに近い寺を紹介するという信頼関係を保つ努力をしてきませんでした。寺は大いに反省しなければなりません。
葬儀料金の定額化は「分かりやすくて安心」という人もいますが、地域によってはもっと安く葬儀をしてきたところもあります。定額は平等のようで実は平等ではありません。
一方、お布施に対する不信感は、寺や僧侶がそれをどう使っているのか不透明なことから生まれます。日頃から檀家とコミュニケーションをとり、寺の活動やお布施の意義を理解してもらうよう努力すべきです。
弔いの場は、死に立ち会ってきた僧侶が、大切な人を亡くした方々の悲しみに寄り添う場でもあります。儀式を執り行うことで、心の区切りもつけられます。
しかし、葬儀で住職がお経だけ読んで法話もせず、ご遺族と会話もしないで帰るようでは、そのうちにロボットに取って代わられるかもしれません。寺の存在や僧侶の役割を感じてもらい、僧侶は襟を正して宗教者としての社会的使命を果たしていかなければなりません。まさに今は仏教の真価が問われています。
(聞き手・岡田匠)
■葬儀サービス「安さより明朗さで支持」
流通大手イオンが2009年に始めた「イオンのお葬式」は、イオンライフ(千葉市)が全国の葬儀社と提携し、全国一律のサービスを提供しています。利用者は都市部が約7割。実家の菩提(ぼだい)寺や墓が遠く離れている場合に頼むケースが多いようです。
一番依頼が多いのは49万8千円の「家族葬」で、全体の4割を占めます。30~50人の規模で、通夜、告別式、初七日などが含まれます。34万8千円の「一日葬」と19万8千円の「火葬式」が合わせて約5割。火葬式はいわゆる「直葬」です。読経や戒名の費用は含まれず、別途、寺院を紹介します。「お布施の目安」は火葬式が4万5千円、一日葬が7万5千円、その他のプランが15万円です。
イオンライフの広原章隆社長は「多くの人は葬儀社に対して『高くなるのでは』といった不安を抱いています。このサービスが支持された理由は、安さよりも明朗な点ではないでしょうか」。
ベンチャー企業「ユニクエスト・オンライン」(大阪市西区)が運営する「小さなお葬式」も09年にサービスを始め、16年度までに10万件を手がけました。通常価格で、火葬だけの「小さな火葬式」が19万3千円。告別式だけの「小さな一日葬」が34万3千円。通夜も告別式もする「小さな家族葬」が49万3千円です。人口減などで檀家(だんか)がいなくなった寺や、檀家がいても今後減っていくという危機感から同社と提携に踏み切る寺も多いそうです。(田中聡子)